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…ちょっと待てよ。ただのgifファイルなら、こんなにコピーに時間がかかるはずはない。…黒一色なら。例え、こんなに古いパソコンだとしても。
…とにかく調べる必要があるな。俺は上着の内ポケットに、用心深くそれをしまいこんで、ノートパソコンをフロントに返した。
不安と緊張からか、それから一睡もできず、ただ寝顔を見つめていた。このあどけなさを残す、この子の裏側には…何が隠されているのだろうか?
粘りつく疑心感。アウトサイドの寝顔と、インサイドの謎。早くたどり着きたい。真実に。
それから一時間ほどしてからだろうか?やっとリコがもぞもぞと動き出した。
山になった灰皿に、更に一本ねじ入れて、俺は彼女に近づいた。
そっと髪の毛に触れ、頭を撫でる。
「おはよ。大丈夫かい?」
目をつぶったままの気だるそうな雰囲気で、頭痛いと答えるリコ。
飲みすぎたんだろ?よく眠っていたよ、とミネラルウォーターを差し出す。
一口で三分の一を飲むような勢いでゴクゴクと喉を鳴らす。
『ありがと。ごめんね。迷惑かけてない?』
「うん。わりと静かに眠っていたよ」
『…で、ここはどこ?』
はい、とホテルの案内を差し出すと、理解したようだった。
『酔って眠ったあたしを、こんなところに連れ込んだんだ…』
「ち、違うよ。いや、そうだけど。普通のホテルに、まさか眠ったままのリコを、連れて行くわけにもいかないし、駐車場からそのまま入る形だったから…」としどろもどろに答える。
『冗談よ。あなたはそんなことしないって知ってるわ』と吹き出す彼女は、やっぱり一枚上手なのかもしれない。
「わからないよ。俺だって男だからね」悔し紛れに言ってみるが、じゃあ今から…する?なんて言われて一発でノックアウトだ。
「わかってるクセに。しかも鼻の下を伸ばした瞬間に、断るんだろ?」
『その通り。でも…あなたなら…ううん、何でもない』
意味深なセリフを残して、シャワールームに消えていく彼女。フワリと香る残り香に、少しだけ心が揺れた。
身支度を整え、別れの時間。
胸の内ポケットの秘密に気づかれないように、少し急いでタクシーに乗り込む。
「じゃあね…」
『うん。また連絡するね』
バタリと自動で閉まるドアが、二人を分断した。
いつも別れは寂しいものだ。つながりが消えてしまうみたいで。走り出すタクシー。小さくなるリコ。胸が締め付けられるんだ。