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ホテルのルームキーのように"6"とだけ彫り込まれたカギと…名刺。
あまりの不可思議さに目が少しだけ醒める。
…人間とは現金なもので、長年付き合った彼女との別れの痛みより、目の前の興味を優先してしまう。
大きく"6"と書かれた扉の前に立ち、カギをゆっくりと回す。
カチリと音が鳴り、扉が開いた。
恐る恐る中に入ると、静かに光るものがある。…あれはPCのモニターか。
縦に長いスペースに、座卓とモニターが鎮座する。暖房がついているみたいで、ほのかに温かい。
キョロキョロと辺りを見回しても、他に何も見当たらない。少し煮詰まったコーヒーがあるぐらいか。
「これじゃあ漫画のない漫画喫茶じゃないか」僕は思わず声を上げた。
仕事でもないのにPCになど向かいたくもない。
実を言うと少しだけ、セクシーなサービスを期待していたこともあり、興ざめしてしまった。
上着を放り投げ、ゆったりとしたイスに座り込み、コーヒーをひとすすり。
…温まる。ひどく重い頭を一つ振って、深いため息を一つ。
…何やってるんだろ…。
あんなお兄ちゃんに騙されて、出て行く時にはいくら請求されるか、わかりやしない。
…帰るか。温まり、少しは頭もマシになった。飲みかけのカップをテーブルにコトンと置いた。おっと。そんなに手荒く置いた覚えはないのだが、少し雫が跳ねてしまった。
備え付けのティッシュで拭こうとすると、先ほどの名刺が目に入った。
「えっと…なになに…"アザーサイド"?」
そこには彼の名前などではなく、ただ"アザーサイド"とロゴが書かれ、その下にはURLが印刷されている。
安いトナーで印刷されただけの、安っぽい名刺。
『こちらが"カギ"となります』
ふと彼の言葉を思い出した。
このURLもカギと…いうのか?
僕は目の前のPCにそのURLを打ち込んだ。
【アザーサイドへようこそ】
軽快な音楽と共にロゴが浮かび上がる。
俺は慌ててボリュームを下げた。入った瞬間やクリック毎に鳴る音楽は、ストレスに感じるから。
マリ…アカネ…サキ…。
女の子の名前がズラリと並び、クリック出来るようになっている。
とりあえず上からクリックすると…【入室できません】の文字。
…わけがわからない。
上から順にクリックして…やっと入れた部屋が【リコ】
入れた喜びより、わけのわからない不思議さだけが身を包んだ。