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『…じゃあさ、教えてよ…あなたの本音』
まっすぐにこっちを見て、リコは言う。
「うん…でもさ、場所を移さないか?路上で話すのも寒いだろ?」
『じゃあ…ホテル行く?』
「いや…帰れるように、駅の近くにしよう」
寂しい気配を感じ取ったのか、彼女は強く腕を絡ませた。"離れない"と主張するように。
『じゃあ行きつけのバーあるからそこにしようか』
断る理由もなく、俺は黙って彼女についていった。
駅のホームを通り抜け、歓楽街の方へ向かう。色とりどりのネオン。看板。行き交う人々。
誰もが陽気で笑顔に見えるのは、酒のせいなのだろうか?
人ごみの中をかいくぐるように、スルスルと歩く。まったく迷いもせずに。
どんどんと、人がまばらになっていく中、目的の店はあった。
派手に主張する看板もなく、店名さえわからない。その中にスルリと入る彼女の背中を追った。
中には一人の客の姿もなく、若そうなバーテンが一人、暇そうにグラスをみがいている。
『いらっしゃい。珍しいね、誰かを連れてくるなんて』その声を遮るように、彼女は叩きつける。
『うるさいよ余計なこと言わないでよあたしが寂しい女みたいじゃない。あのさ、奥のボックス貸して。接客はいらないから』
…いいのか?それで?
『リコの頼みじゃしょうがないね。ボリューム上げるよ。あと…これ』
その一瞬を見逃さなかった。紙袋に包まれた"それ"を。たぶん…CD-ROMだろう。DVDかもしれないが。あの薄さ、あの形なら…きっと。
『ん、ありがと』と無造作にバッグに放り込み、俺の背中を押すようにして、一番奥まったボックスに陣取った。
続いてバーテンがボトルセットを持ってくる。
『あなたも災難ですよね。酒グセ良くないからさ』
『シン。"口は災いの元"って知ってる?』有無を言わさない冷たさで、バッサリと会話を切り捨てる。
バーテンは気にしない様子で、手を開いて、カウンターに戻り、ボリュームを上げた。
「…よく来るの?」
『たまにね。女が一人で飲めるとこは案外少ないからね』
これだけの容姿なら、仕方ないことなのだと思うけど。
慣れた手つきでグラスに氷を落とし、静かに酒を注ぐ。水を入れてマドラーで、クルクルと回す手つきにも、色香を感じて。
どうぞ、と差し出されたそれを、がぶりと飲んで、ふうと吐き出した。勢いがなきゃ、たぶん言えないだろうから。