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俺の性格的な問題もあるだろう。
俺は、完全に"受け"なのだ。
自分から前に出て主張するわけでもなく、他人に合わせるのが、いつの間にかうまくなっていてさ。
気付いたら、求めなくなっていた。だから…婚約者はいなくなったのかもしれないが。
こういう膠着状態が一番困る。彼女の心なんて見えないし、打開するほどの"何か"さえ見つけられない。
頼むからそんな目で俺を見ないでくれ。どうしたら…自然に笑えるのだろうか。愛想笑いでもなく、卑屈にもならず。
「ごめん。笑い方さえ忘れたみたいだ」手の内をさらけ出すように、裸の心が口をつく。
そうだ。きっと俺は泣きたかったのだろう。プライドなんて捨てちまって。人目なんか気にしないで。
ただ…一人では泣きたくなかっただけだ。惨めになるだけだから。
『"大人"って疲れるよね。甘えてもいいんだよ?』
まるで聖母のようなその言葉に、俺は寄りかかってしまいたかった。
「一つだけ聞いてもいいかな?」
『なに?』
「俺はリコのなに?」
直球。どんな答えが出ても裏を取れないし、ソースもない。だけど…きっと俺はその時レミングスのように、風が吹いただけでも無くなってしまうくらい、弱々しかった。
まっすぐにじっと目を見つめる。彼女の挙動、呼吸音、空気や背景まで、見逃さないように。
ゆっくりと空気に色をつけるように、リコは話し始める。
『本音で言うとね、まだわからない。彼氏とも友達とも違うし…でもただの"客"としても…違うんだよね』
「信じていい?リコを」
『それも、わからないわ。例えばこのまま続くのか、明日、離ればなれになるのかさえあたしにはわからないんだもの』
ギリギリの本音だろう。俺にとって、都合のいいことばかりを言うわけでもなく、かといって依存させるわけでもなく。
「…そう…だよね。俺がずるかったのかも。傷つかないよう、傷つけないよう、慎重に言葉を選ぶとね、いつも相手に選択肢があって。俺は、それを責めるか、受けるかするだけで。…最低だよね?」自嘲気味に吐き出した本音。
生きていくための処世術は、いつしか"ずるさ"に変わっていた。
『あなたは優しすぎるのよ』
「違うよ。こんなの臆病なだけじゃないか君にさえカッコつけてばかりで、本音すら言えやしないんだから」
思わず涙がこぼれそうになる。忘れていたはずの、熱い気持ちが甦る。