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今の仕事を始めたのはもう半年ほど前。
理由は…生きるため。ただそれだけ。
黙ってニコニコしていれば、お金が入ってくる。あたしはあたしに値段をつけたんじゃなく、時間を切り売りしているだけ。退屈を埋めるためでもあるけれど。
…詩的な表現だと俺は思った。
でもね、お金が絡むと男って本性が出て。下心なんてかわいいもんじゃないわね。ただの性欲の塊。セックスがしたいだけの獣とはよく言ったものよ。
少し男として肩身は狭いが…これだけの美貌なら、欲に流されても仕方ないのかもしれない。
ただ、信じてほしいのは、あたしは一度だって、あたしを売ってはいないってこと。商売女にもプライドはあるの。
そりゃそうだ。蔑んだ目で見る奴も多いだろうが、人間だもんな。同じ心を持った。
『でも、あなたは違った。ちゃんと女の子として扱ってくれた』
「慣れてないだけだよ」
もし慣れていたら、俺もそういう扱いしていたのかな…?いや、どうだろうな。
『それが嬉しかったの。明日も会いたいなんてワガママ言って…ごめんね』
押して引く。常套手段じゃないか。騙されるな。と、さっきから頭のサイレンは鳴りっぱなし。レベル4。国家規模の重大な事件。
でも、どうしてリコはこんなにも、小さく見えるのだろう…。
『ワガママついでにもう一つ…お願いがあるの』
「俺にできることなら」
『あたしが眠るまで…そばにいてほしいんだ』
確かに、他人の温もりは癒す効果がある。
そんなことはお安い御用と、俺は黙って右手を差し出して、隣に寝転んだ。
最初からそこにあるかのように、すっぽりと収まるリコの身体。
『…ありがと』
そう呟いて軽く唇を重ねた。
耐えるんだ、理性。お前は獣じゃない。風呂上がりの髪の香りが鼻腔をくすぐる。それが余計に胸のどこかを刺激して。
でも身体を重ねなくても、温もりは感じられるんだな、と今さらながら気づいた。彼女とは、いつしか義務の様になっていたもんな…。
ふと思い出すと、フラッシュバックの様に、胸を様々な思いが駆け巡り、縦横無尽に爪痕を残す。
思わず、涙がこぼれそうになったが…横ですうすうと寝息を立てるリコを見ていると、なぜだか心が落ち着いていく。
…俺も少し眠るか…。と、その時。
激しいバイブ音と共に、テーブルが音を立てた。
俺は彼女を起こさないように、そっと腕を引き抜いて、それを止めた。