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アザーサイド。"otherside"
レッチリの名曲から。
アナザースカイとかアナザーヘブンとか迷ったけれど、しっくりきたタイトルで。
一番簡単な和訳は『別面』違った一面とか。…裏側とか。
レッチリでは『別世界=あの世』的に使っていますが。
決してパラレルではない。でも確かに存在する、アザーサイド。
年末からずっと書きたくて仕方がなくて。
やっと形にできそうです。
「ちくしょうっ、どいつもこいつもバカにしやがって」
俺はひどく荒れていた。目の前の空き缶を蹴り飛ばす。
どれだけ飲んでも、悲しみはなくなりやしない。ただ気持ち悪さだけが…残る。
およそ2時間前、結婚を約束していた彼女にフラれた。
『他に好きな人ができた』無機質に機械のように告げられて、広くなった部屋と自由を手に入れた代わりに、希望すら失った。
アイツのためを思い、働いて働いて…。その答えが"もっとかまって欲しかった"だとよ。
バカ野郎。それは俺か?お前か?
自棄になっていた。
目につく全てが敵に思えた。
くそっ。俺が何をしたっていうんだ…違う。何もしないのが悪かったのだ。
フラフラとおぼつかない足取りで、壁を頼りに前に進む。こんな時でも進むんだな。どこか冷静にそんなことを思って。
『酔ってますねえ。大丈夫ですか?』
聞き慣れない声が頭の上から鳴る。
「あん?なんだお前は?関係ないだろ?ほっといてくれ」
煩わしかった。人の声、行き交う車、街の喧騒。…いや、音そのものが。
『いや~見たところ、癒しを求めちゃいませんか?僕にはそう見えましてね』
…即座に間に合ってるとは言い難く。目の前に立つ、ヒョロいお兄ちゃんの飄々とした話し方に、つい耳を傾けた。
「どうせぼったくりだろ?」
『いえいえ…そういうものではございませんよ。あくまで自由恋愛。僕はその扉の前までご招待差し上げるだけのものです』
行き着く先は…天国か地獄…か。
どうでも良かったが、とにかくどこかで少し休みたかったのも事実で。
地べたから伝わる冷たさに、俺は骨まで凍えていたから。
「それはどこにあるんだい?」
『おっ?やっぱりお客様は僕が見込んだだけのことはありますね。それでは僕に着いてきてください』
スッと差し出されたその手を利用して、何とか重い腰を地面から引き剥がす。
肩を借りて歩いていくと、ドアがズラリと並ぶ建物が見えた。漫画喫茶のように立ち並ぶドア。それぞれが個室になっているのだろう。
『驚きましたか?それとこちらを…』
手渡されたものは、カギと一枚の名刺?
『そちらが"カギ"となっています。ではごゆっくり…』
「おい、ちょっと金は」
それに返事はなく、また闇の中へ消えていった。
まるで"ウオッチマン"アリスのウサギみたいだ。
俺はもう一度手の中を見て、現実だと確認した。