三度の飯より追放〜クズに追放された俺、そいつの記憶を消して『ご馳走様』する話〜
「おい……とっとと歩け! この無能がよ。お前をこのパーティーに置いてやってるのは誰だと思ってるんだ!」
激しい雨が僕を打ちつける中、リーダーの男は僕の背中を思いっきり蹴飛ばした。
『ベチャリ』と、足で踏まれ、泥水の中に顔を押し付けられる。
冷たい泥の感触と鼻を突くにおいが広がる中、リーダーはそんな僕をゴミを見るような目で見下ろし、冷酷に吐き捨てた。
「無能。お前はこの遠征が終わったらクビだ。
街に戻ったら今すぐ俺たちの目の前から消えろ。だが、理不尽に辞めさせるわけじゃないからな?
離脱金は当然無しだ。お前に支給してやった装備も、全部ここに置いていけ」
あまりの言い分に僕が泥まみれの顔を上げると、リーダーはさらに残酷な笑顔を浮かべた。
「ああ、そうだ。お前が必死に担いでるその『魔王軍幹部の遺骸』、それは俺たちの手柄としてギルドに届ける。国中から『ギルド期待の新星』ってチヤホヤされてる俺たちが、さらに上のランクへ行くための、ただの踏み台だ。
お前は最後まで『荷物係』らしく、泥水を這いつくばってでも街の門まで運べ」
……本当に理不尽の極みだ。
自分の足で踏みつけている相手に、最後の最後までタダで働かせようという強欲さ。
そして、周りからの賞賛をすべて自分たちの実力だと信じ込み、他人をいくら利用しても構わないと本気で思っているその性格。
普通の人間なら、絶望して泣き叫ぶか、怒りに狂う場面だろう。
だけど、僕の胸の奥から湧き上がってきたのは、全く別の感情だった。
(……ああ、素晴らしい。これだよ、これ。この底知れないクズっぷり……!)
僕は僕の目的のために、あえてこの最悪な環境に居座り続けていた。
なぜなら、僕はリーダーから最高の悪意という名の『快感』を与えてもらうために、ここにいたのだから。
「……はい。わか……分かりました。ぼ……僕は、このパーティーの『お荷物』を、きちんと門まで運ばせていただきます」
僕はわざと、怯えた哀れな少年の声を演じてみせる。
「……あ? 喋ってないでさっさと担げ! このゴミが! お前のせいで俺の貴重な時間がどんどん減るだろうが!」
「は……はい。すぐ……すぐに運びます……っ」
僕は、ゆっくりと立ち上がった。震える手で、巨大な魔物の遺骸に手をかける。
重い。
わざと体から力を抜いているから、膝がガクガクと笑って上がらない。泥の中に何度も突き倒される。そのたびに、リーダーの脇に控える仲間たちの嘲笑が僕を突き刺す。
「ぎゃはは! 見ろよあの無様な姿! まるで泥まみれのミミズだな!」
「おい荷物係! 運ぶのが遅いぞ! もっとシャキシャキ歩け! 俺達に迷惑を掛けるな!」
周りで騒ぐパーティーメンバーたち。
でも、僕にとっては彼らの言葉なんて、ただのうるさい羽虫の羽音にしか聞こえない。
僕の心を動かすのは、目の前の最高のご馳走――リーダーの悪意だけだ。
リーダーが面白半分に、僕の背負った荷物の上に乗った。『ドスン』という重い衝撃と共に、僕の顔が再度泥に埋まる。
「ぐっ……げほっ…げほっ……!」
「おっと、悪い悪い。お前が『お荷物』だから、ちょっと重さを足してやったんだ。感謝しろよ? お前みたいな無能でも、こうしてパーティーの役に立てるんだからなぁ!」
リーダーは僕の頭を足踏みして、わざと泥水を顔に叩きつける。
時間を忘れるほど延々と続く屈辱。
さらにリーダーは僕の耳元に口を近づけ、僕の親や、今まで必死に守ってきた故郷の村のことを引き合いに出して囁いた。
「お前だって、故郷を守りたいんだろ? だったらもっと這いつくばって、俺たちを気持ちよくさせてみせろよ」
鼻と口が泥で塞がれ、息ができない。リーダーの足に込められた力は、冗談抜きで僕を窒息死させようとしていた。
「そんなに息がしたいのかよ」
リーダーは鷲掴みした僕の顔を泥沼から無理やり引きはがした。
「そんなに息がしたいのならさせてやるよ!」
リーダーの手のひらに、緑色の不気味な光が灯る。
「あ………がぁ…………」
リーダーが放った風魔法が、僕の口から肺へと直接流し込まれた。逃げ場のない風が体内に無理やり詰まり、肺が破裂しそうな苦しみが襲った。
「ごぁ………ぁ……」
「ギャハハ! ほんっとお前おもしれぇな! ほら、もっと空気を吸えよ!」
僕は、リーダーの顔を睨みつけた。
「あ? なんだ、文句か? 嫌ならここで死ぬか?」
リーダーが剣の柄を使い、僕の頬を小突く。一回、二回。皮膚が簡単に切れ、赤い血が冷たい泥の中に混じっていく。
「お前は俺の玩具なんだよ。無能でゴミなお前に、価値を持たせてやってるんだよ」
普通の人間なら、『あ、僕、死ぬんだ』と、絶望に目を背ける場面。
でも、僕の脳内では、今までにないほどのドロドロとした熱い『快感』が爆発していた。
肉体の痛み、理不尽な暴力、故郷を脅かされる恐怖、そして理不尽な追放の宣告――。
それらすべてが、僕の特別な力にとって、これ以上ない極上の栄養素だった。
「あ゛? なんだその反抗的な目は。良いよ。そんなに俺が嫌いなら今すぐ追放してやるよ」
リーダーの男は僕を地面に叩きつけると、最後に口を耳元に近づけて、勝ち誇ったように囁いた。
「実はな、俺はお前の保証人になってるんだよ。だから、お前がここで事故死すれば、ギルドから巨額の弔慰金が俺の懐に入る。お前はここで『魔物に襲われて死んだ無能』になるんだよ!」
リーダーの口から飛び出した、明確な『殺意』。
「あが………っ」
「ぎゃはは! ほら死ね! 死んで俺の金になれ!」
激しい衝撃と共に、何度も冷たい泥水に沈められていく。
だけど、リーダーのその言葉を聞いた瞬間。僕の中で溜まりに溜まっていたメーターが――ついに、限界を突破した。
(――ああ、これだ。待ち侘びたよ、これほど完璧なクズを……!)
僕の固有スキル、【快感業果喰い(かいかんごうかくい)】。
クズに虐げられ、理不尽に追放される瞬間の『絶望とヘイト』を、自分自身の極上の快感と圧倒的な力に変える最悪の能力。
耐えて、耐えて、じっくり熟成させた最高のご馳走が、今ようやく、目の前で完成したんだ。
「クフッ、あはは! 最高、本当に最高だ……! ありがとう、リーダー」
「……あ゛? 何をブツブツ言ってやがる。おらっ」
リーダーが苛立ち、泥水にまみれた僕の頭をさらに強く踏みつける。
だが、その足はもう、一ミリも沈まなかった。
次の瞬間、リーダーの体がまるで巨大なバネに弾かれたように、フワリと宙に浮いた。
「がっ……!? な、なんだっ、今のは――」
俺が『頭の力だけ』で、踏みつけていた足を跳ね除けたのだ。
そしてゆっくりと立ち上がる。
先程まで震えていた膝は微動だにせず、泥まみれの背筋は不気味なほど真っ直ぐに伸びている。
「ようやく終わったぁ〜それじゃあ……お楽しみの『ご馳走』の時間だぁ」
「お、お前……その声……それに、その目はなんだよ……!」
リーダーが数歩、後ずさる。
それまで「僕」と呼んでいた幼稚なガキは消え、そこには、ただ静かにご馳走を見定める「俺」が立っていた。
ドロリとした濃密な殺気が俺の体から溢れ出し、周囲の空気を凍らせていく。
「ま、待て……おい! お前ら、何を見てる! こいつを殺せ! 俺を助けろ! 早くしろ!」
リーダーが背後の仲間に向かって叫ぶ。
その声に反応して、今まで俺を嘲笑していたメンバーたちがハッと正気に戻り、武器を構えた。
「な、なんだよ荷物係の分際で!」
「生意気なんだよ、逆らうなら死ね!」
わめき散らしながら俺に襲いかかろうとする仲間たち。
俺にとってこいつらは、極上のご馳走を食べる邪魔をする、ただのうるさい羽虫に過ぎない。
俺の手を汚して直接相手をする価値すら、こいつらにはないんだ。
「本当にうるさいなぁ。――まぁいいや。君たちは、リーダーを刺す『羽虫』になってよ」
俺は【快感業果喰】で得た強大な力を指先に集め、前に突き出した。
俺の中に溜まった悪意と快感の一部が、黒い霧のような呪いとなって、襲いかかってきたメンバーたちの脳へと一瞬で侵入する。
「あ……が、あ、あああ!?」
「頭が、割れる……! 身体が、勝手に……!?」
メンバーたちの目が同時に血走り、正気が失われていく。
彼らは俺の前でピタリと動きを止めたかと思うと、一斉にギチギチと首を回し、自分たちのリーダーの方を向いた。
「おい……? お前ら、何をしてるんだ? 剣を向ける相手が違うだろ……?」
リーダーが顔を青くして後ずさりする。
しかし、呪いで操られたメンバーたちの耳には届かない。
彼らはただの「リーダーを攻撃する動く羽虫」へと変えられていた。
「殺す……リーダー、殺す……!」
「お前のせいで、俺たちは……!」
「ひっ……! くるな、来るな! 悪かった! 今までのは冗談だろ!? お前ら、正気に戻れ!」
さっきまであれほど偉そうにしていたリーダーが、泥の中で無様に腰を抜かし、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら後退りをする。
「いやだ、嫌だぁぁぁ!」
リーダーの短い悲鳴と共に、呪われたメンバーたちが一斉に飛びかかった。
構えた武器の腹で殴りつけ、容赦なく泥水の中へ蹴り落とす。
「ぎゃああああああかっ! 痛い、やめろ、お前ら頼むからやめてくれぇぇぇ!」
リーダーの顔が恐怖と絶望に染まっていくたびに、俺の【快感業果喰い】はさらに甘美なエネルギーを吸い上げていく。
「あはは、最高。本当に最高だよ。これ以上のご馳走はないね」
最高のご馳走が、十分に食べ頃になったところで、俺はパチンと指を鳴らした。
その瞬間、操られていたメンバーたちは糸が切れた人形のように、リーダーの周りでバタリと倒れ込み、気絶した。
「ひっ、ひぃぃぃ! くるな、来るなっ……!」
ようやく羽虫の嵐から解放されたリーダーは、全身泥と血にまみれ、無様に腰を抜かしたまま後ろへ後ろへと這いつくばっていた。
さっきまでの威勢は完全に消え去り、そこにあるのは、ただ恐怖に震えるだけの『哀れな肉塊』だ。
俺はゆっくりと歩いて、腰を抜かしているリーダーの前に立ち、視線を合わせるために腰を低くした。
「あーあ、そんなに怯えた顔しないでよ。……せっかくの『ご馳走』が、台無しになっちゃうじゃないか」
「嫌だ……俺は、俺は『ギルド期待の新星』なんだぞ……! 王国騎士団の推薦だって貰ってるんだ! こんなところで終わるわけには……終わっていい人間じゃないんだぁ!」
リーダーは、未だに自分が「特別で優秀な人間だ」というプライドにしがみつき、泣き叫ぶ。その見苦しい姿に、俺は思わず吹き出してしまった。
「へぇ、それ、全部俺が代わりに倒してあげた魔物の手柄だよね?」
「……え?」
リーダーの動きがピタリと止まる。
「君が天才魔剣士として放っていた強力な魔法も、俺が後ろでこっそり魔力を込めてあげてたから。君の剣がどんな魔物の皮膚も切り裂けたのは、俺が裏で魔物の『防御の業』を全て喰い尽くしていたからだよ。ギルドがチヤホヤしてた君たちの栄光って、全部『俺からの借り物』だったんだよ」
「な、何を言って……そんなの、嘘だ、嘘に決まって――」
「じゃあ、確かめてみようか。ほら、俺がその手を完全に離したら……君には何が残るの?」
俺がそう言って指先を軽く振ると、リーダーの身に付けていた高級な魔法防具が、パリンとガラスのように砕け散った。
それどころか、リーダーの身体から魔力が完全に抜け落ち、立っていることすら不可能なほどに肉体が衰えていく。
「が、あ、あああ……!? 体が、動か、ない……力が……!?」
「嘘つきは小次郎の始まりなんだよね。さっき『無能』だの『置いてやってる』だの、よくもまあそんな大嘘を並べ立ててくれたもんだ。違うよ。俺が君たちの『お荷物』を運んであげてたんだ。……この、最高のゴミ捨て場までね」
これが本当の種明かし。
リーダーという最高品質のクズから、極上の悪意と絶望を絞り取るために、俺はあえて荷物係として彼らを「期待の新星」にまで育て上げたのだ。
「さあ、借りてた物はきちんと返さないとね。……返して」
「が……ぁ……あ…………!」
言葉にならない恐怖で顎をガタガタと鳴らすリーダーの顔面を、俺は『ガシッ』と大きな手で鷲掴みにした。俺の指先から、ドロリとした【快感業果喰い】の術式が直接彼の脳へと流れ込んでいく。
「いやだ、嫌だぁぁぁ! 俺の、俺の栄光が、記憶が消える、何もなくなっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
激しい雨の音をかき消すような、絶叫が響き渡る。リーダーの身体は『ビクン』と大きく跳ね、それから糸が切れた人形のように、泥の中にぐったりと崩れ落ちた。
しん、と、冷たい雨の音だけが周囲に戻ってくる。俺の足元に転がっているのは、さっきまでの傲慢さやプライドの欠片もない、ただの「空っぽ」の肉塊だ。
【快感業果喰い】によって全ての栄光と記憶を吸い尽くされた元リーダーは、もう自分が誰なのかも、今まで何をしていたのかも、この先どうやって生きればいいのかも、何一つ思い出せない。
俺はピクリとも動かなくなったそれを見下ろし、感情の失せた冷え切った声で、そっと囁いた。
「おやすみ。俺の玩具」
さて、これでメインディッシュの調理は終わった。
だけど、まだこの場には片付けなければならない虫が残っている。
俺はゆっくりと振り返り、地面に倒れて気絶していた残りのメンバーたちの前に立った。指先から少しだけ魔力を流し込み、彼らの意識を強制的に呼び覚ます。
「う、あ……っ」
「ここは……ひっ!? に、荷物係……!」
目を覚ましたメンバーたちは、目の前に立つ俺の姿と、完全に廃人となって転がっているリーダーの姿を見て、ガタガタと歯を鳴らして怯えだした。
さっきまで自分たちがリーダーをメッタ刺しにしていた記憶は、彼らの中にしっかりと残っている。
「あ、あの! 俺たちは、俺たちはただリーダーの命令に従っていただけで……っ!」
「そ……そうよ! あなたをクビにしようって言ったのも、拷問したのも全部あいつの仕業よ! 私たちは悪くないわ!」
必死になって自分たちの保身のために言い訳をまき散らすメンバーたち。その見苦しい姿を見つめながら、俺の口元は自然と歪んだ。
俺の手を汚す価値すらない、ただのうるさい羽虫。だけど、こいつらも立派な「クズパーティー」の構成員だ。
タダで逃がしてやるほど、俺は優しくない。
俺は彼らを見下ろし、これ以上ないほど優しく、そして最高に満足した笑顔を浮かべて微笑みかけた。
「おつかれさん。とても楽しかったよ。――じゃあ、君たちのご馳走(業)も、いただくね」
「え――」
驚きに目を見開くメンバーたちの顔面を、俺から伸びた黒い霧のような魔力の触手が同時に包み込んだ。
「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
彼らの脳から、これまでの記憶、身に付けていた能力、ギルド期待の新星として得ていたすべての実績が、ドロドロとした光の球となって吸い出されていく。
短い悲鳴の後、メンバーたちもまた、リーダーと同じように泥水の中へと崩れ落ちた。もう彼らには、自分が誰かも、何をしていたかも分からない。ただ生きているだけの、空っぽの人形だ。
「ふぅ……あー、お腹いっぱい。やっぱりクズを極限まで厳選した甲斐があったなぁ」
自分の手のひらを眺めながら、俺は満足感に浸る。これほど美味しい絶望を味わえるなら、あの理不尽な拷問や泥水を飲まされる苦痛なんて、安いものだ。
背後で雨に打たれる「かつての期待の新星」だったモノたちに、俺の興味はもう一ミリも残っていない。
「さて、次はもっと、いい玩具を探そうかな〜。今度はどんなクズに出会えるか、本当に楽しみだなぁ〜」
楽しげに鼻歌を歌いながら、俺は『期待の新星』たちが必死に守りたがっていた魔王軍幹部の遺骸を、『ひょい』と肩に担ぎ直し、深い森の闇へと消えていった。
(ご馳走様)
【制作メモ】
本作は、作者が考案したプロット、設定、言葉遊びをベースに、AI(人工知能)と二人三脚で本文の執筆・調整を行って完成させました。
「嘘つきは小次郎の始まり」
僕(俺?)の幼稚な復讐劇、楽しんでいただけたでしょうか。
もし「もっとこいつの蹂躙が見たい!」「スカッとした!」と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、僕にご馳走をいただけると嬉しいです。
あなたの評価が、次のクズパーティを見つける軍資金になります。
好評であれば続編を作ります。
実は、次なる獲物(続編の内容)は既に考えていますのでご心配なく。皆様の「ご馳走ポイント(評価)」を、心よりお待ちしております!
【お知らせ】
本作のような一癖ある婚約破棄ざまぁやコメディ、追放やローファンタジー等の短編をギュッと1つに集めた連載をスタートしました!
作者名(またはページ下の『作者マイページ』)から、新連載『僕の愛した物語たちの宮殿』をぜひお気軽に覗いてみてください!




