裏切り
乾いた風が、その朝、静かに吹いていた。
それはただの風ではなかった。
砂埃と枯れ葉を巻き上げながら――何かが変わろうとしている気配を運んでいた。
小さな村、ハンベイの中央広場には、人々が集まっていた。
男も女も、老人も…そして何より、若者たち。
数十人。
豪華な刺繍の服をまとった者もいれば、
ぼろ布のような服しか持たない者もいた。
だが、彼らに共通しているものがあった。
希望。
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今日は特別な日だった。
選別の儀。
それは五年に一度、すべての宗門の支配領域で行われる儀式。
五年。
それが、新たな世代が生まれ、成長し、
そして“選ばれる”ために与えられた時間。
選ばれなかった者は――
さらに五年待たなければならない。
だが、ほとんどの場合――
それは二度目の機会が来ないことを意味していた。
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「今日、弟子が選ばれる…」
「五大宗門が来ている…」
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石でできた高台の上に、五人の人物が立っていた。
彼らは――五大宗門の代表。
白の衣をまとい風のように軽やかな者。
黄金の紋様を身に宿し威厳を放つ者。
闇のような衣に包まれた者。
緑の装いで自然と調和する者。
そして――血のように深紅の衣を纏う者。
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その前に置かれていたのは――核石。
古く、磨き上げられた石。
誰も読めぬ文字が刻まれている。
嘘をつかない。
誤ることもない。
それは、すべてを見抜く。
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儀式は単純だった。
残酷なほどに単純。
一人ずつ前に出る。
胸に手を当てられる。
そして――石が反応する。
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「不合格」
「可」
「平均」
「中級資質」
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泣き崩れる者。
歓喜する者。
そして――静かに消えていく者。
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その中に――リュウセイがいた。
質素な服。
働き続けた手。
だが、その目は違った。
希望ではない。
耐え抜く覚悟だった。
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「次」
彼は歩いた。
一歩ずつ。
台へと上がる。
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「名前は?」
「リュウセイ」
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老人の手が胸に触れた。
核石が――反応する。
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だが。
何も起きなかった。
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光らない。
震えない。
沈黙。
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「妙だな…」
「弱くはない…だが測れない」
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「不安定」
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「修行には不適」
「崩壊する可能性あり」
「価値なし」
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リュウセイは退けられた。
まるで――最初から存在しなかったかのように。
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夕暮れ。
彼は家の前に座っていた。
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中から声が聞こえる。
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「そんなこと、できるはずがない…」
「もう決めた」
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「私たちの子よ!」
「失敗作だ」
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沈黙。
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「売るつもり?」
「冬を越えるためだ」
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「彼が家族よ!」
「荷物だ」
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その言葉で――すべてが終わった。
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外で、リュウセイはすべてを聞いていた。
何かが――壊れた。
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扉が開く。
父と母が出てくる。
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目が合う。
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だが、何も言わない。
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ただ――背を向ける。
家に戻る。
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そして――
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バタン。
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それが、終わりだった。
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「こいつか?」
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振り返る。
黒い衣の男。
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「そうだ」
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「売るのか?」
「機会を与えるだけだ」
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嘘だった。
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男は微笑む。
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「俺はシャオ・テンだ」
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「来い」
「生き残れば――強くなれる」
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リュウセイは振り返らなかった。
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そして、歩き出した。
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夜。
長い道。
静寂。
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夜明け。
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「行くぞ」
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馬車が動き出す。
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村は遠ざかる。
過去も、名前も、すべて。
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こうして――
誰にも気づかれることなく、
一人の少年の物語が始まった。




