終わらないすべて
……
……
痛い……全身が血だらけで、口の中まで血の味がする。これは一体どういうことなんだ……
ゆっくりと目を開けたけれど、頭に鋭い痛みが走って、また目を閉じてしまった……
……
何年も前の今日、俺はある事故で昏睡状態になり、身動きが取れない植物状態になっていた……
再び目を開けた時、枕元からは絶えず泣き声が聞こえてきた……
「お姉ちゃん、どうしてこんなことになったんだよ……もう耐えられないよ……」
弟の心配……だったのか? あの日から弟はずっと現れては、こう言い続けた……
「お姉ちゃん、死んでくれない?」
そしてどれくらい時間が経ったのか、弟の口調も変わっていった……
……
「ドン……バン……」
また一日の始まりだ。俺の名前は和川。俺の家庭は三年前から、少しずつ壊れていった……
三年前……いや、それよりもっと前からだ。父は酒を飲むたびに、俺や母や姉に暴力を振るっていた。
けれど外ではいい顔をしているせいで、周りの人間はいつも俺たちが悪いと思い込んでいた。そんな生活がずっと続いていた……
この社会では、結婚すればすべて男側に従わなければならない。家のことも何もかも、全部だ。どうしてそんなことになるのか、俺には分からない……
外では不満も反抗も見せられない。そんなことをすれば、すべて俺たちのせいにされるだけだからだ……
母もそんな重圧のせいで、うつ病になってしまった。感情が高ぶると、叫び出してしまい、すぐに怒るようになった……
父の親は、それをただの「頭がおかしい」としか思っていなかった。母が取り乱すたびに、横で嘲笑い、皮肉を言い続けていた……
そして、ついには完全に壊れるまで追い詰めた。
父は家に帰るたびに、俺と姉に暴力を振るう。逃げようとしても、何度も何度も失敗した……
俺はどうすればいいんだ……
俺だって自分らしく生きたいのに、何かをしようとするたびに、父や祖母に嘲られ、罵られる……
「おいおい、お前何やってんだよ。何もできないくせに。何のためにいるんだ? 全部俺たちに頼る気か? 絶対にさせねぇぞ、このバカが!」
「うるせぇな、死んでろよ。どっか行けよ、目障りなんだよ!」
何をやってもダメだ。大好きだった趣味さえ奪われた。どう生きればいいのか、もう分からない……
「おい、なんだその格好は。男のくせに気持ち悪いな。女のつもりか? 本当に吐き気がするわ!」
押しつぶされ続けて、もう限界だった……
何もかも男女で決めつけるこの社会は狂っている。気持ち悪い……もう耐えられない……
「姉ちゃん……俺……もう無理だ……助けてくれ……もう全部嫌なんだ……!」
それが、姉に言った最後の言葉だった……
姉は一瞬こちらを見て、微笑んで慰めてくれた。けれど、それ以降、姉の言葉を聞くことはなかった……
……
その後、姉は事故で脳に障害を負い、言葉もまともに話せず、ベッドの上で寝たきりになった……
その瞬間から、家はさらに地獄のようになった……
姉は常に世話が必要になり、母はうつと暴力に耐えきれず、ある日家を出て、それきり戻ってこなかった……
そして残ったのは、俺一人だけ……
俺に何ができるっていうんだ……何もできるわけがない……
……
家に帰れば、意味のない声を上げ続ける姉がいる。学校では、同級生に嘲笑されるだけ……
何をしても異物扱いされ、終わりのない嘲笑が続くだけ……
……
毎日、姉の世話をする。料理なんてできなかった俺が、今では毎日おかゆを作って食べさせている……
……
姉の部屋に入ると、姉は何かを伝えようとするけれど、声にならない音しか出せない……
「もう……いいだろ、姉ちゃん……うるさいんだよ……もう全部嫌なんだよ……」
この感覚はなんだ……
今までずっと罵られてきたのに、今は逆に罵る側にいる……こんなにも気持ちいいなんて……
その日から、姉が何かするたびに、俺は罵り続けた……何度も……何度も……
……
「おいガキ、邪魔なんだよ。こっち来い、このクズが。何してやがる、バカ、ゴミ、クズ野郎!!」父が怒鳴る……
俺の胸ぐらを掴み、壁に叩きつける……
「何がしたいんだよ……!」俺は歯を食いしばって言い返した
「その口の利き方はなんだ? 誰のおかげで生きてると思ってんだ、あぁ!?」
そう言って、また突き飛ばされた……
父は灰皿を手に取り、何度も俺に投げつけてくる――!
「全部お前のせいなんだよ! だから我慢しろ! 耐えろ! お前は男だろ、この家を支えろ!」
祖母も叫ぶ……
「そんなの自業自得だよ! 普通ならとっくに逃げてるよ!」
……
逃げたいのに逃げられない。目の前には見えない壁があるみたいで、どうしても越えられない……
ネットに助けを求めた。少しでも救いが欲しくて、書き込んだ……
でも――
「バカじゃねぇの? 自分のせいだろ」
「それくらい普通だろ。父親は正しい」
返ってきたのは、嘲笑だけだった……
これが現実か……
ネットなんて、ただ他人を笑いものにする場所でしかない……
……
もう全部、限界だった……
どれくらい経ったのか分からない。
どうして俺はこんな人生を生きているんだ……
……
その日、俺は姉の部屋に向かった。終わらせるために……
手には、包丁を握っていた……
姉の前に立った瞬間、涙がこぼれた……
「俺……もう無理なんだよ……姉ちゃん……」
その時、姉が――動いた……
「待って……弟……その包丁を置いて……話そう……」
驚いた。どうして……
「私も分からない。でも……あんたも辛かったんでしょ?」
姉は、どこか不気味に笑った……
手が震える。心臓が壊れそうに脈打つ……
「ねぇ……あんたさ……」
姉は立ち上がり、近づいてくる……
「この半年、ずっと私に暴言吐いてたよね? ご飯にも変なもの入れて……どういうつもり?」
……
俺は叫んだ
「なんで俺だけなんだよ!! なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ!!」
包丁を振り上げる――
「パキッ……」
血が飛び散る……
姉の腕が切り裂かれた……
それでも姉は俺に近づき、包丁を叩き落とした……
「バカ……何やってんのよ……」
姉は叫んだ
「分かってるよ……あんたの苦しみ……全部……聞こえてたから……!」
……
姉は深く息を吐き、優しく言った
「座って……全部、話して……」
俺は涙を拭きながら、すべてを話し始めた……
……
あの日、俺は姉にたくさん話した。何もかも、何もかも……
まるでこれまでの人生で起きたすべてを吐き出すように、長い時間ずっと話し続けた……
けれど、その夜――運命は再び動き出した……
……
その夜、父は姉がまだ生きていることに気づき、動揺した様子で姉を見つめていた……
あの事故には、父も関わっていたらしい。娘を養いたくないという理由で、姉の彼氏と手を組み、金を渡して、姉を殺すか、事故に見せかけるように仕向けていたのだ……
彼氏は最後に手を下したあと、倒れたと思っていた姉のそばでこう言ったらしい……
「ごめん……お前の父親に金をもらって……いや、あいつの指示で……だから俺は……」
そう断片的に言い残して、そのまま逃げた……
そしてその夜、姉は父と対峙した。
やがて部屋の中から、苦しげな叫び声が何度も響いてきた……
父が去り、倒れるように眠ったあと、俺はようやく部屋に入ることができた……
目の前にあったのは――血まみれでベッドに倒れている姉と、床に転がる一本の包丁……
それは朝、俺が使ったあの包丁だった。きっとさっき父が姉のそばから取ったんだ……
あれを置いたのは俺だ。全部、俺のせいだ……
震える手でスマホを取り出し、何かをしようとした……
現実から目を逸らすために……
けれど画面に映ったのは、相変わらずの嘲笑と中傷だった……
やっぱりそうだ。この世界はいつもこうだ……
希望を探せば探すほど、最後に残るのは絶望だけ……
この世界には、かつてほんのわずかな希望があったのかもしれない。
だが現実は、それを容赦なく引き裂いた。
約束された公平や正義、機会なんてものは、ただの偽りの仮面に過ぎない。
夢を持つ者は無慈悲に踏み潰され、弱者は無視され、強者だけが高みから見下ろしている。
世界は、誰のためにも立ち止まらない。
希望なんて、ただ手の届かない幻想だ。
社会の濁流は、すべての小さな命を押し流し、人を無力にする。
どれだけ努力しても、冷たい現実の前では無意味になる……
残るのは、絶望だけ……
この世界は、誰の努力も必要としていないのかもしれない……
そもそも、奇跡も希望も存在しないのかもしれない……
俺はそれを見つめながら、歯を食いしばり、ひたすら自分を責め続けた……
その時、父がふらつきながら戻ってきた。
手に持っていた灰皿を、俺の頭めがけて叩きつけた――
激しい痛みとともに、血が流れ出す……
父はスマホを奪い取り、乱暴に投げ捨てた……
「フン……おいガキ、何する気だ。警察にでも連絡するつもりか? できるわけねぇだろ、バカが……!」
酒臭い息を吐きながら、嘲笑する……
そして俺の体を掴み、倉庫へと乱暴に押し込み、外から鍵をかけた……
「そこで大人しくしてろ。そうすりゃ何も起きなかったことになる。あの女の死体が腐って見つかる頃には、お前も一緒だ。しばらくそこで反省してろ!!」
そう言い放ち、家のドアを乱暴に開けて出て行った……
……
俺は倉庫に閉じ込められた。
どれだけ押しても扉は開かない。傷口からは血が流れ続ける……
何度も体当たりしたが、びくともしない……
その衝撃で、手も顔も傷だらけになり、血で染まっていく……
やがて力尽き、床に座り込んだ……
その時、目に入ったのは一本のベルトだった……
俺はそれを手に取り、深く息を吸い込む……
首に回す……
――このまま終われたらいい……
苦しまずに済むなら、それでいい……
やっぱり、この世界はこんなものだ……
最初から、人生に希望なんてなかったのかもしれない。
人は皆、明日への夢を抱いて生きるけれど、最後には時間の流れに飲み込まれて消えていく……
成功も喜びも、ただの一瞬の幻……
まるで、よく聞くあの言葉みたいに――
「人は皆、明日への夢を抱いて生きるけれど、最後には時間の流れに飲み込まれる。
成功も喜びも一時の幻想に過ぎない。永遠だと思った幸せも、手のひらの砂のようにこぼれ落ちていく……」
……
もう、いいだろ……
俺はベルトを強く握りしめ、静かに笑った……
……
……
……
痛い……全身が血だらけで、口の中まで血の味がする……これは一体どういうことなんだ……俺はゆっくりと目を開け、すぐそばに転がる血まみれの体を見つめた……
父親……だよな。
それでも俺は生きている。しかも痛みすらほとんど感じない……とにかく、ここから逃げないと……
自分の体についた血を払う。血はすでに乾いて固まっていた……
父親がまだ家にいるか分からない。早くここを離れないと……
……その時、姉は――あの結末が決まっていたはずの運命から、生き延びていた……
…………
前方を見渡すと、人の気配はない。
床に落ちている血だらけの包丁が目に入った。俺はそれを拾い上げ、ベッドの下に隠した……
危ないからな……しばらくはベッドの下で寝てろよ。もう出てくるな……
前に進むと、壊れたスマホが落ちていた。
画面には、弟がネットで受けた嘲笑や中傷が映し出されていた……
全部、ひどすぎる……
少しでも息をつける場所を探していたはずなのに、結局これか……
そう思いながら、俺はスマホの投稿を削除した……
弟はどこだ……?
まさか父親に……
俺は走り出し、やがて激しく叩かれた跡だらけの倉庫の扉を見つけた……
すぐに鍵を外し、扉を開ける――
そこにいたのは――床に倒れ、首にベルトを巻いた弟だった……
どうして……こんなことに……くそ……
俺は弟に駆け寄った。
まだ息はある。ただ気を失っているだけだ……ベルトも完全には締まっていない……
急いで首のベルトを外し、そのまま弟を背負う――
そして、この閉ざされた家から、必死に逃げ出した……
……
その後、すぐに警察へ通報した。
俺たちは保護されることになった……
……
……
…………
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…………
俺は苦しみながら目を開けた。
気がつくと、白いベッドの上に横たわっていた……
そして、姉が――きれいなワンピースを着て、こちらに歩いてくる……
……夢か……?
それとも……
窓の外から差し込む陽の光を見つめる……
ここはホテルか……? どうして……
姉は俺のそばに来て、そのまま隣に横になり、静かに言った――
「やっと終わったね。父親とおばあちゃんは逮捕されたよ。
お母さんは……あとで聞いたけど、おばあちゃんに騙されて、巻き込まれて亡くなったみたい……
……父親は私たちを殺そうとした罪で裁かれた。
これで全部、終わりだね。
これからは、私たち二人だけだよ。
ちゃんと生きていこうね。何があっても……生きていこうね……」
そう言いながら、姉の目から涙がこぼれた……
俺は姉を見つめ、その手を強く握った……
そして――
「うん……俺たちなら、きっとできる」
「この世界は、相変わらず灰色で、終わりの見えないトンネルみたいだけど
一歩一歩が重くて、目標も遠く感じるけど
それでも――
たとえ光が見えなくても、手を伸ばして進むことはできる
たとえ小さな一歩でも、その場に立ち止まるより、確実に前に進んでる
……あの時、俺はそう気づいたんだ」
姉は俺を見つめ、優しく微笑んだ……
そして、強く抱きしめてくれた……
窓から差し込む朝日の光が、部屋を包み込む――
あの瞬間、俺は確信した。
すべては終わった。
そして――俺たちは、ようやく新しい始まりを迎えたんだ……
今回は、電車に乗っているときに思いついたアイデアなんだ。
電車やバスに乗るたびに、ちょっとした出来事で人間の嫌な一面が見えてくることがあるよね(笑)




