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俺の話を聞いてくれー西武新宿線界隈ー  作者: あいまいもこ


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5/13

間の悪い夜ほど、昔の自分に会う

終電を逃した。

ミシマは改札の前で立ち尽くして、ため息をひとつ落とした。


そこへ、黒川とハルが階段から降りてくる。


「あ、ミシマさん。やっぱ乗れませんでした?」


「……目の前で行っちゃったよ。扉閉まる瞬間に俺と目が合った気がした」


「電車に見捨てられるのって、妙に心にくるっすよね」


「“お前は今日ここで終わりだ”って言われた感じ」


三人は自販機横のベンチに腰を下ろした。

沼袋駅の深夜は、誰も急いでいない空気が漂っている。


「でもまあ、いいじゃないですか。こういう日は反省会ですよ」


黒川が唐突に言う。


「なにを反省すんの?」


「今日の全部」


ハルが笑った。


「範囲広すぎるだろ……」


ミシマは少し考えてから言った。


「じゃあ俺は……“頑張った人ぶるのをやめる”かな」


ハルが眉を上げる。


「珍しく重たいな」


「だって今日、仕事でミスしたのに、ずっと“まあこんなもんだろ”って顔してたわけよ。現実は“小銭しかない財布”みたいにスカスカなのに」


黒川はペットボトルを傾けながらうなずく。


「俺は“逃げなかったふりをやめる”。今日、会いたくない相手に偶然会っちゃってさ」


「誰?」


「昔のバイトの先輩。“お前、まだここら辺にいんの?”って言われた」


ミシマとハルは、無言で顔を見合わせた。


「うわ……それキツいやつ」


「そう。ああいうとき、なんで人って笑っちゃうんだろうな」


ハルが苦い顔で言う。


「もう“勝負ついてる”感じの会話っすよね」


「しかもさ、その人、今なんか会社立ち上げたらしいんだよ。俺、当時のまま変わってないのに」


ミシマはベンチの端を軽く叩きながらつぶやいた。


「こういう夜さ、自分だけ取り残されてる感じになるよな」


「駅に取り残されると、人生に取り残された気分に直結するのやめてほしい」


三人はしばらく沈黙した。

終電後のホームは、誰も見ていない絵画みたいに静かだ。


ふいにハルが、思い出したように言った。


「そういえば俺、今日もう一人に会いましたよ」


「誰?」


「……“昔の自分”に」


ミシマと黒川が同時にハルを見る。


「え?」


「いや、幻覚じゃなくて。沼袋の踏切んとこで、中学生くらいの子が、部活帰りみたいな格好でさ。俺、ああいう感じだったんすよ。疲れてんのに未来だけはある、みたいな顔」


黒川がうつむきながら言う。


「……未来、なくなった?」


「いや違うんすよ。なんか、“あいつの未来がここなんだよな”って思ったら……すれ違った瞬間、謝りたくなった」


ミシマが苦笑する。


「“ごめん、こんな大人で”って?」


「そう。“もっとマシな未来を用意しておくつもりだった”って」


黒川がぽつりと言う。


「でもさ……俺ら、あの頃の自分の期待を裏切ったか?」


ハルは少し考え、首を横に振った。


「裏切ったというか……“現実のほうが強かっただけ”かな」


ミシマはゆっくり呼吸して、深夜の空気を肺に入れる。


「もし今の俺を昔の俺が見たら……多分こう言うと思う。“まあ、そこそこ元気ならいいや”って」


黒川とハルが同時にうなずいた。


「そうだよな。昔の自分って、妙に優しいよな」


「“成功してるかどうか”より、“まだ笑ってるか”のほうを確認してくるタイプ」


「そうそう」


駅の時計が、日付が変わる寸前の静かな秒を刻んでいる。


黒川が立ち上がり、伸びをした。


「さて……タクシー代もないし、歩いて帰るか」


「反省会、締める?」


ミシマが問いかける。


ハルが軽く笑って言った。


「今日の結論。“取り残されても、帰る方向が一緒ならまあいい”」


黒川もうなずく。


「三人で歩きゃ、“取り残された夜”もただの帰宅ルートだよ」


ミシマは小さく肩の力を抜く。


「じゃあ帰るか。沼袋は逃げないしな」


三人はゆっくりと改札を離れ、深夜の街へと歩き始めた。


その背中を見送るみたいに、さっきすれ違った“あの頃の自分”が、どこかでまだ息をしているような気がした。

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