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俺の話を聞いてくれー西武新宿線界隈ー  作者: あいまいもこ


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13/13

夢って、いつ経費になるの?

ハルは、昼の三時に起きた。

起きた瞬間、なぜか「俺はいま、人生の経費を垂れ流してる」という強烈な自覚だけがあった。


コンビニのレシートが、机の上に散乱している。

全部、理由のない出費だ。


アイス、アイス、カフェラテ、唐揚げ棒。

途中で買った“やる気スイッチ”と書かれた怪しい栄養ドリンク。

効いた試しはない。


ハルはレシートを一枚めくりながらふと思う。


——夢って、経費にならんのかな。


そんな魔法みたいな制度があれば、人生はもう少し軽くなるのに。


スマホを見ると、黒川からメッセージが来ていた。


《今日19時。リホさん、話あるらしい》


《まさか閉店?》


《想像だけで不安になるな》


ハルは起きて三分で不安になれる人間だった。


ミシマからも来ていた。


《昼から履歴書書いてるけど、志望動機のところ白紙で永眠しそう》


みんな生きてるだけで忙しい。


---


夕方、沼袋の居酒屋。


珍しく、三人とも時間通りに集まった。

リホが何やら分厚い封筒を持っている。


黒川が言う。


「その封筒…辞表じゃないですよね?」


「お店、潰れる?」ハルが続く。


「大丈夫。もっとくだらない話よ」


リホは封筒を机に置いた。


「昨日、確定申告に行ってきたのよ」


ミシマが笑う。


「確定申告って言葉、体温下がりますね」


「でね、税理士さんに言われたの。“経費が全然ありませんね”って」


ハルが言う。


「経費って難しいっすよね」


「そうなのよ。でも、聞いて。

“仕事につながるものはだいたい経費にできます”って言われたの」


三人が驚く。


ミシマが真っ先に食いつく。


「じゃあ、夢も…?」


「夢は無理」


「即答…!」


黒川が言う。


「でも役者志望の俺が見る映画って経費になるんですか」


「なる場合もあるらしいけど、証明できるかどうかよね」


ハルはテーブルのコースターを回しながらつぶやく。


「証明って、何を……?

“俺の人生に必要でした”って言えばいいの?」


黒川が言う。


「それ言い始めたら、人生全部経費だろ」


ミシマが乗る。


「家賃も、電気代も、カップ麺も、全部“活動に欠かせませんでした”って主張すれば……」


ハルが胸を張る。


「俺なんて、寝るのも将来のためっすよ。“体力がいる”って理由で」


黒川が冷たい目を向ける。


「それはただの惰性だ」


---


飲み物が届く頃、話題は“経費として認めてほしいもの”に変わっていた。


ミシマが言う。


「履歴書書くために飲んだコーヒーって、経費?」


黒川が言う。


「落ちたら無駄じゃない?」


「無駄な努力って一番価値あるじゃん」


ハルが言う。


「じゃあ俺のプリクラ写真代も経費でいいっすよね。採用に向けた投資だし」


黒川が首を振る。


「頭おかしい方向の投資」


リホが笑いながら言う。


「三人とも、経費ってそういう制度じゃないから」


ミシマが深くため息をつく。


「でも、ほら。“夢に使ったお金”って、結構あるよね」


黒川がうなずく。


「俺なんて舞台のワークショップやら台本やら、全部将来のためなんだけど…

現実にはただの散財だからな」


ハルが言う。


「夢のコストって、人生で一番高くつきますよね」


全員、静かになる。


その沈黙を破ったのは、奥の席の常連のおっさんだ。


「夢の金は、払ってるうちが楽しいんだよ」


三人が同時に振り向く。


「楽しいんですか?」


「楽しいよ。叶ったら払わなくなるだろ?

夢ってのは“叶わないうち”が一番儲かる。店側は」


「店側……?」


おっさんは唐揚げをつまみながら言った。


「世の中の商売は、大体“叶わない夢に金を払う客”で回ってんだよ」


三人は揃って軽く絶望する。


---


リホが追加で水を置きながら言う。


「夢を経費にしたいなら、まず“夢を仕事にする”しかないわね」


黒川が静かにうなずく。


「仕事にしたらしたで、今度は“夢なのに義務になる”んだよな」


ミシマがつぶやく。


「結局、夢ってどの段階が一番幸せなんだろうね」


ハルが言う。


「たぶん、“ちょっとやってるけど、まだ始まってすらいない”くらいの時期じゃないっすか」


全員、なぜか納得した。


---


店を出ると、風が少しだけ春の匂いを含んでいた。


黒川が言う。


「なんか今日、俺、仕事してないのに“働いた感”あるわ」


ミシマが言う。


「分かる。人生の棚卸しした気分」


ハルも続く。


「俺もちょっと、“夢ってだめじゃない”って思えてきました」


黒川が言う。


「でもレインボーのプリクラは経費にならない」


「そこは……もう忘れたいっす」


三人は笑いながら分かれていく。


沼袋の夜道は変わらず静かだが、

今日だけは少し、“夢に優しい空気”が混ざっていた。


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