傘なし会議
沼袋の空は、夕方からずっと小雨だった。
振っているような、止んでるような、どっちつかずの雨。
駅前のコンビニの前で、ミシマと黒川とハルが屋根の下に避難していた。
「降ってるようで降ってない雨、いちばんやる気なくしません?」
ハルが空を見上げる。
「これ、“濡れてもいいけど濡れたくない”みたいな性格してる雨だな」
黒川が言う。
「誰の性格と似てんだよ」
「ミシマ」
「やめろ」
三人はコンビニに入るでもなく、かといって帰るでもなく、ただ入り口をふさいでいた。
ミシマが言う。
「傘持ってないんだよな、今日。家まで走るほどのモチベもないし」
「走ったら絶対後悔するタイプの雨っすよ、これ」
ハルが頷く。
「でも立ってるのもだるいんだよ」
「入れば?」
黒川が顎でコンビニを指す。
「用がない」
「立ち読みすればいいじゃん」
ハルがすでに雑誌コーナーを覗きに行っている。
「ハル、読んでるフリうますぎるんだよな。店員に“あの人、本当に読んでる”って思われそう」
「事実、読んでるんすよ。買わないけど」
黒川が笑う。
外に残ったミシマは、雨の音を聞きながらポケットを探った。
出てきたのは、小銭が三枚だけ。
「……俺、今日、小銭しかない」
「何円?」
「112円」
「自販機に喧嘩売ってる金額じゃん」
黒川は缶コーヒーを片手に、のんびり言った。
「さて、帰るか」
「傘あるのかよ」
「あるわ。常備」
「お前、無職なのにその辺だけ準備いいよな」
黒川は肩をすくめた。
「天気だけは裏切らないからな」
ミシマはその言葉にツッコミかけて、やめた。
なんか今日の黒川は、妙に“無駄にカッコつく日”らしい。
ハルが雑誌を閉じて出てくる。
「……あの、店員さんに“買います?”って聞かれました」
「お前、毎回だぞそれ」
三人は笑った。
雨はまだ、小さく続いている。
しっかり降るわけでもなく、止むわけでもない。
「これさ」
ミシマがぽつりと言う。
「沼袋で一番“帰りたくなる場所”って、たぶん家じゃなくて、このコンビニの軒下なんだよな」
黒川が言う。
「わかる。ここ、“帰る前の休憩ポイント”みたいになってる」
「中間地点っすよね。家でも外でもない」
三人はしばらくしゃべらず、雨を眺めた。
なんてことのない時間だった。
ただ、無職とフリーターの三人が、沼袋の軒下で雨宿りしているだけ。
だけどそのどうでもよさが、少しだけ心地よかった。
黒川が最後に言った。
「じゃあ、お前ら。タイミングで散るぞ。雨が“降ってない風”の瞬間を狙うんだ」
「そんな瞬間ある?」
「ある。人生と一緒。隙間みたいな時間」
ハルが笑う。
「いや、急に名言っぽくすんな」
雨が少し弱くなった気がした。
三人は同時に一歩踏み出した。
なんの計画もなく、なんの意味もなく。
沼袋の夜は、今日もただゆるくて、ただ静かだった。




