クラスの天使様を海釣りに誘ってみた
クラスの天使さまと一緒に夜空を見上げて幸せを感じる一般男子の物語です。
また俺の席に男子が座っている。隣の席のクラスの天使様と呼ばれる女子が目的の男子たちだ。反対側には女子達がいる。クラスで注目され続けているのは俺の隣の席に座る井口綾さんで、清楚系の秀才女史だ。
高校の入学式以来、首席スピーチで美少女と注目を浴び、あれよあれよと高校を代表する女子となり、他校からも運動部の猛者が誘いに来るほどの知名度を誇る。現在は二年生。俺の席は彼女の隣だが、朝から放課後、休み時間は凡そ他の男子が座って占有され、俺は窓から校庭を眺めて過ごすという状況を強いられていた。
「まったく、あいつらは遠慮が無いなぁ」
実は、俺は小学生から彼女とは知り合いの幼馴染と言えない事もない間柄だ。クラスは小学校時代に四年間、中学時代は二年間も一緒だった。高校は二年になってから一緒になった。運命と呼ぶには若干薄く、赤の他人という程には離れていない。
でも、会話はそんなにしたことがないし、仲良く遊びに行ったりも経験はなかった。野外活動で同じ班になったりして普通に親しく喋るぐらいの微妙な関係である。まぁ普通のクラスメイト並。俺は遠目から彼女を眺めるというのが常で、心の中に好きという感情があるものの、何とかなるという現実感はなかった。それが休み時間には席を立って他の男子たちが座れるように配慮する事に繋がっている。
彼女との会話が可能なのはシャープペンや消しゴムを落とした時か、教科書を忘れた時ぐらい。だけど、現実問題、普通の生徒の俺にはコレだけでも幸せを感じているところだ。彼女の笑顔が近くで観れる、落としたものを拾ってあげた時に「ありがとう」と笑顔で目を合わせられるだけで幸せな気持ちを味わっていた。
「高根君、消しゴム落としたよ」
「ありがとう」
俺の名は高根学。彼女からは高根君と呼ばれているが、名前を知られているだけで嬉しいという陰キャのレベルではなく、ちゃんと認識はされている。
彼女は消しゴムを机の上に置くのではなく手渡しをしてくる。その際に指が触れる時が度々あり、その度に心が躍ってしまう。小学生低学年の時に可愛い顔を好きになり、フォークダンスの際に手に触れて尚一層惚れてしまい、中学生時代にこうしてふと触れ合う事によって彼女の全てが眩しく恋愛感情フル稼働となった。
今は理科、進化論の関係で魚類の授業中である。先生が彼女に質問を飛ばしてきた。
「井口さん、あらゆる脊髄動物の祖先であるシーラカンスに外見が似ている魚をあげてみて」
「外見ですか? うーん」
さすがにイレギュラーな質問だった。才女の彼女も分からないらしい。ちなみに俺は釣りをするのでたまたま知っていた。
(クエだよ)ボソリ
「え、えっと、クエがあります」
「はい、正解。冬に食べるクエ鍋がありますけど、美味しくて時期によってはトラフグよりも市場価格が高くなります。滅多に口に出来ない超高級魚ですね。これはテストには出ませんので覚えなくて結構です」
「「ブーブー、先生、それひどい」」
「井口さんには高評価を付けてあげますね」
さっと座った井口さんは俺の方を見て(ありがとう)とニッコリ笑って呟いてくれた。幸せを感じる。
「高根君、理科系の授業の時だけ元気だよね。よくクエなんて魚、すぐ分かったね」
「まぁね、釣り好きだからさ。クエは時々釣るんだよ」
「……(知ってる)」
「うん、どうした?」
「ううん、何でもないよ」
「……」スマホで検索中の井口さん。但し使用禁止の授業中
「井口さん、釣りに一緒に行こうか?」
「え、本当、誘ってくれるの? 行きたい」
「しかも今夜、堤防に行くけど、来るなら」
「行く!」
先生「あー、そこ、私語を慎みなさい」
「「すみません」」
休み時間での会話などではこうはならなかっただろう。授業で井口さんが指名された勢いでの会話だったと思う。不自然な展開にも感じるほど、釣りに一緒に行くことになった。もちろん、俺は歓喜した。顔には出さなかったけど、釣りなら自分の土俵、緊張せずに会話できるし、もっと仲良くなれそう。
(放課後、家に帰って直ぐに着替えて駅で待ち合わせね)
(分かったわ!)
(友達誘ってもいいけど大勢になると足音とかが魚を散らすから程々でね)
(了解よ!)
(道具は俺が用意して駅前のロータリーに先に待ってるから)
(ばっちりよ!)
(夜釣りになるからお母さんには遅くなると言っておいてね)
(うん。楽しみ!)
えらく彼女の食いつきが良かった。今まで長い間、親しくなる接点がなかっただけに不思議だ。清楚で才女、アウトドアとはイメージが合わなかったので意外であった。どちらかというとスィーツを微笑みながら食べているという印象の方が強い。彼女に対する認識を改めた方が良いのかな?
・・・・・
クーラーボックスに餌の冷凍キビナゴ、リール付きの振り出し竿を三本、大型リュックに道具類や収納振り出しタモ、釣りベスト、帽子を着用して駅で待っていると彼女が来た。
「おまたせ」
井口さんはズボンにシャツ、防寒具と普通にアウトドアの格好をしてきた。うん、合格だ。似合ってるじゃないか。
「井口さんの服装はOK、じゃぁ、電車で港まで行って防波堤で釣りするからね」
「うん、楽しみ。高根君よろしくね」
「友達は来ないの? 男子と二人きりで良かったのかい?」
「もちろん、私やる気一杯だからね」
「あ、ああ……」
・・・・・
【釣り場】
「お疲れ、着いたよ」
「うふ、まだ明るいけどもう直ぐ暗くなりそうで怖いね」
「まず先に説明しておこうか。今夜は半夜釣りと言って、二十一時ぐらいには納竿、終電に間に合うように帰宅するよ。懐中電灯は海面を照らさないように、喋る声は七分の一ぐらいしか水中に伝わらないから大きな声は問題ないよ、足音だけは水中に伝わりやすいので静かに歩いてね」
「分かった!」
「餌は、うにゅうにゅするニョロニョロじゃなく、冷凍キビナゴっていう小魚、これを切って針につける。そしてケミホタルという光る部品を竿の先に付けて魚のアタリを待つんだ。まずは準備するよ。大きなのが掛かったらタモを共同作業で取り込むからな。あと誘いとか教えるぞ」
「専門用語が多いから一緒に釣りしながら教えてね」
「OK」
「井口さんには愛竿フランソワーズを貸そう」
「え、竿に名前つけてるんだ」
「こっちの竿はエリザベスな。普通に竿は腕の延長だからね」
「へぇ~、なんだか面白いね」
「竿が折れた時は大変だぞ。心が」
「あはは……可愛い」
「……(キミのその笑顔の方が可愛いけどな!)」
「大切に扱うね」
「おう頼む」
こうして釣りを始めたのだが、タコ、エイ、ウツボ、時々イセエビが釣れた。目的のクエは掛かってきていない。タコやイセエビなど高級魚介類は採捕が禁じられているところが多いので注意だ。こういった仕組みを井口さんに説明したら、感心してくれていた。
「クエは超高級魚だけど掛かっても切られてしまうから、釣り人は『今のはデカかったな』と思うだけで正体を知れる人は少ないんだ。堤防に棲んでいることも余り知られていなくってね。俺が開発した釣り方をやるから、今夜釣れたら嬉しいぞ」
「うん。暗くなってからケミホタルが奇麗ね。幻想的だわ」
「楽しいだろ。意外とノンビリできるし、非日常感が味わえる。お金もそんなにかからずに長く遊べる好い趣味だよ。ゴミ問題だけは困るけどね」
「うん!」
「ゴミと言っても観光地なら普通に問題になってるし、釣りだけじゃなくて色々と課題はありそうだけどな。環境問題って釣りをやる人ほど意識は高いんだけどさ」
「へぇ~。高根君、人が変わったみたいに生き生きしてるね」
「ほっとけ」
「ふふふ……いいところ発見」
「井口さん、結構、俺達って長いよね。小学生の頃からだから」
「うん、こうやって出かけるの初めてだものね。また誘って欲しい」
「……ああ、ありがとう」
「こちらこそ」
「とっておきの夜釣りの良さを教えてあげよう。上を向いてごらん」
「ん?」
「わ~~~~~」
「星空が奇麗だろ」
「凄いね」
「ああ」
「吸い込まれそう。星が一杯見えるわ」
「少し寝転んで眺めていると良いよ。リュックを枕にしてさ。竿のチェックは俺がやっておくから」
「あっ! 星空の中に銀河鉄道が走ってる!!」
「ああ、あれはスターラインの衛星だよ。初めて見ると驚くだろ。銀河鉄道の夜とか999とかリアルに感じるから」
「え~~~~~~~ほんとだぁ~~~~~」
目をキラキラさせる井口さん。
彼女は思ったよりも新鮮な感覚を感じ取ったらしい。こんな世界があっただなんて、今まで、どうして知らなかったのだろう、どうして知ろうとしなかったのだろうと感慨深かったらしい。流行の話題が普段なので、アウトドア、しかも何となくイメージが受け入れにくい釣り、だからこそ、たった半夜釣りで経験したことが沢山あり、衝撃だった。
「なんだか今日だけで凄く色んなことを体験したわ。野外学習の比じゃないぐらい素敵」
「喜んでもらえて良かったよ」
「高根君の事もいっぱい知れたから良かったよ」
「そ、そんなことを……」
この日は大きな魚が掛かったけど釣り上げることは出来なかった。クエの60㎝までは釣り上げている高根でもあっけなく切られたので、クエだとしても70㎝以上はあったのだろう。
「そろそろ時間かな。仕舞って帰ろうか」
「うん、ありがとう」
・・・・・
帰り際、電車の中でウトウトしはじめた井口さんは頭を俺の肩に預けてきた。今日一日で凄く近い存在になったような気がする。釣りを趣味にしていて良かったという気がする。
駅で別れる際、彼女はスマホを出してID交換を希望した。意外だったので驚いてしまったが、無事に交換することが出来た。しかし、こんなに近しい感覚になると、明日からの学校生活がどうなるだろう? ひょっとして普段から会話をするような仲良し同士になれるのかな? それだと嬉しいな。
・・・・・
学校生活は少しずつ変わっていった。一番何が変わったかというと、井口さんから時々スマホにメッセージが届くのだ。まだ別に付き合ったりはしていない、友達? みたいな関係にはなっている。
「今度、渓流釣りに連れて行って!」
「クマが怖いな。対策をしっかりしないとダメだぞ」
「大丈夫! 教えてね」
こういう関係にまでは進んでいた。俺は心底幸せを感じていた。カップルになるとまでは畏れ多くて考えないようにしている。少なくとも学校での高嶺の花が俺みたいな一般男子と仲良くしてくれているのは有難い。他男子からの嫉妬は受けるけど、そんなに悪い印象はなかった。寧ろ蔑むような視線は減り、当たりが優しくなったという程だった。
彼女は俺の事どう思っているのだろう?
告白してみたい気がする。まだ答えは出ていない。
↓ クエの釣れる防波堤
次回は渓流釣りでもう一歩関係が進む、疎遠になっていた二人を描いてみたいと試みます。
純愛胸キュン物語まで急がば回れ、無理してイチャイチャさせるとR18ノクターンいき。
一歩間違えれば釣り雑誌の釣行記になっていたほど危うさギリギリ。
どんな感じの小説が好まれるのかテスト的に創作・投稿しています。
面白くなければ★1、思しければ★5あたりで評価ください。
ご参考にして今後に役立てたいと思います。(可能であれば)




