表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/92

第80話「だからどうした? そんなことがなんだってんだ?」

「資格って?」


 夏美の口から出たあまり馴染みのない単語に、俺は思わずオウム返しに聞き返した。


「だって……私は修斗くんに酷いことをしたから……酷いことしたのに、平気な顔していられないもん……」


「夏美――」


「だから私にはそもそも、好きとかそういうことを論じる資格がないんだよ」


 夏美はそう言うと、小さな声で「あはは……」と力なく笑った。


 夏美はさっき「罪悪感」と言っていた。

 嘘コクという罪を犯した自分を、夏美は許せないのだ。

 夏美は優しくて、素直な女の子だから。

 自分で自分を許せないのだ。


 まったく、夏美らしいな――


 ゆえに俺は言う。


「だからどうした?」


 ゆっくりと。

 なるべく優しい口調で。

 だけど俺の意思を漏らさず伝えられるように。

 2年分の想いを言葉に込めて。


「え――」


「そんなことがなんだってんだ?」

「そんなことって。だって私は修斗くんに酷いことして――」


「言ったろ? 『今』の夏美の気持ちを聞かせてくれって。昔話はしてないよ」 

「ぁ――」


「ここまで来て、俺はもう今さら、すれ違ってはいられないんだ。自分を偽ってはいられないんだ。すれ違いなら俺たち2年もやったじゃないか。そういうのは全部、もうここで完全に終わりにしようぜ」


「――――」


「結果なんてどうだっていい――って、こともないんだけどさ。そりゃ結果はいい方がいいに決まってるけど。でもなにより大事なのは、俺たちがもうすれ違わないことじゃないか?」


 夏美を責めてるんじゃないってことが伝わるように、丁寧に、時おりわずかな茶目っ気も意識しつつ、俺は言葉を紡いでいく。


「修斗くん……」


「ってわけで、もう資格とかそういう面倒なのは抜きにしようぜ。資格とかそういうの抜きにしたら、夏美は俺のことをどう思っている? 素直な答えを聞かせてくれないか?」


「そ、それは──」

 そう、つぶやくように言うと、夏美が押し黙った。


 だが黙るというのはそれ自体、答えを言っているようなものだ。

 もし俺のことをなんとも思っていないのなら、ここで黙る必要なんてないのだから。


 さっさと「ごめんなさい、今はもう好きじゃないです」ってそう言えばいい。

 おんぶしているのが若干、気まずくなるが、それだけだろう?


「夏美。俺は夏美の素直な気持ちを聞かせて欲しいよ。これ以上、意固地になって言葉足らずですれ違うのは、俺はもうこりごりだからさ」


 言い終わると同時に、俺は手の位置を調整して夏美を軽く背負い直すと、もう一度肩越しに笑いかける。


「…………」


 夏美はまだためらっているかのように、口を閉ざしていたが。

 ぶっちゃけ俺には確信のようなものがあった。


 俺が加恋とキスしたと勘違いして逃げだしたのはなぜだ?

 全部、勘違いだとわかって、へなへなとへたりこんだのはどうしてだ?


 つまりは「そういうこと」だろ?


「俺の気持ちは伝えた。だから夏美の気持ちを聞きたいな。告白の返事を聞かせてくれないか?」


 改めて夏美に問いかける。

 今日一番の優しい口調で。

 夏美の心に語り掛けるように。


「私は――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ