第76話「修斗くんは加恋ちゃんと付き合うの?」
「ふふふふ――」
「あははは――」
俺と夏美は夕焼け色と闇色がグラデーションし始めた世界で、向かい合って笑い合う。
久しぶりに心の底から笑った気がした。
お腹の奥から次から次へと笑いが巻き起こって止まってくれない。
それこそ2年分の笑いって感じだった。
夏美も愁いを感じさせない素敵な笑顔をしていて、俺は自然と付き合っていた頃のことを思い出していた。
そうそう、夏美はこんな風に楽しそうに笑いかけてくれる女の子だったよな。
「修斗くんが変なことばっかり言うから、もぅ……」
「だからそれはこっちのセリフだっての」
夏美が涙を拭った。
それは悲しみの涙ではなく、笑いすぎたことによる涙だろう。
「ふふふふ――」
「あははは――」
そしてひとしきり笑い合った後。
夏美がポツリと言った。
「修斗くんは加恋ちゃんと付き合うの?」
遠慮がちな小さな声だったが、夏美の声色には今までのおどおどした様子はあまり感じられない。
「なんでそうなる? ──って、さっきのアレか。アレは誤解だからな?」
「誤解でキスしちゃうんだ?」
夏美が上目づかいで、ちょっと拗ねたように言ってくる。
こういう仕草も昔の夏美そのままだ。
「そもそもキスなんてしてないからな? そこが誤解ってことだからな?」
「ええぇぇ……? とてもそうは見えなかったけど。あ、未遂だったってこと?」
「違うから。未遂でもないから。単に俺の前髪に葉っぱが付いてたのを、加恋が取ってくれただけだから。身長差があったから俺が屈んだんだけど、そしたら加恋が変な悪ふざけをしてきたんだ。キスに見えるような仕草をさ。マジそれだけだから」
実際のところは加恋は夏美にキスだと誤解させるためにわざとやったみたいなんだが、話が脱線しそうなんで、今は言わなくてもいいだろう。
「えっと……ほんと?」
「ほんとだよ」
「ほんとにほんと?」
「俺は一度だって夏美に嘘をついたことはないよ」
『オレ』の方はまぁ、あれやこれや嘘も虚言も弄していたが、あれは別人格の話ってことで。
しかも弱い俺を守るためにやってくれたことだったからな。
――と、
「嘘コクしちゃって……嘘をついちゃってごめんなさい……」
『嘘』という言葉に過剰反応した夏美に、俺は小さく苦笑する。
「だからそれはいいってば。さっきも言ったろ? 大事なのは始まり方じゃなくて、その後の気持ちなんだから」
「……うん。でもそっか……じゃあ、えっと……ぜんぶ私の勘違いだったって、こと?」
「まぁそうなるかな」
「そ、そんなぁ……」
俺の前から逃げ出して、2年ぶりにお互い本心で対話をして、嘘コクもなにもかも全部話して。
その間ずっと気張っていた気持ちが途切れたのか。
夏美は情けない声でつぶやくと、腰が抜けたようにへなへなとその場にへたり込んてしまったのだった。




