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第70話 俺とオレ――加賀見修斗

「……」


「なんで泣いてるかは、もうわかるよね?」


「…………」


「シュートがまた恋ができるようにって、自分の恋心を殺して、必死にアタシとくっつけようとしてたこと。気付いてないわけないよね? まさかそこまで鈍感じゃあないよね?」


「オレ……は……」


「好きな人が、自分じゃない別の女の子と特別な関係になる。それがすごく辛いことだって、そんなこと言わなくたってシュートならわかるよね?」


「オレは……、俺は……、そんなこと一言も頼んじゃいない……」


「うん。ナツミンは優しいから。頼まれなくても『そんなこと』をしちゃうんだ。シュートが一番よく知ってるでしょ?」


 加恋はそう言うと、にっこり笑顔のままで、伝えたいことはもう全部伝えたと言わんばかりに口を閉ざした。


「…………」

「…………」


 遊園地を楽しむ人々の明るいはしゃぎ声があちこちから聞こえる中、オレと加恋は黙って静かに見つめ合う。


 加恋はいつも見せる素敵な笑顔だったが、目だけはいつになく真剣で、しっかとオレの目を見据えて離さない。


 まるでオレの心の奥にいる『俺』に問いかけているように、オレは感じていた。


『夏美を――追わないと――』


 オレの中の『俺』が目を覚まそうとしていた。

 ずっと逃げてきた夏美(過去)に向き合おうと、『俺』が顔をあげようとしていた。


 過去、現在諸々すべてに向き合おうとする心の中の『俺』は、なんとも懐かしい顔をしている。

 愚かなまでに感情的で、一途なまでに盲目で、目の前の恋にただただ一生懸命だった『俺』が、そこにはいた。


 ははっ、いい顔してるじゃないか『俺』よ。

 これならもう大丈夫だな。

 つまりオレの役目はここまでってことだ――。


 恋愛アンチ(オレ)という、『俺』を守るための鎧はもはや必要なくなり。

 それを俺が自覚したと同時に、『オレ』という鎧はガラガラと音を立てて崩れ落ちていく――――


 俺と『オレ』が混ざり、溶け合い、一人の加賀見修斗となる。


 だが『オレ』が消えたわけじゃない。

 俺と『オレ』があって初めて、加賀見修斗なのだから。


 今までありがとな、『オレ』。

 俺が立ち直るまで守ってくれて。


 心の中で惜別を告げると、俺は目の前の加恋に言った。


「背中を押してくれてありがとう、加恋。もう大丈夫だ」


 しっかと頭を下げる。

 1秒、2秒、3秒経ってから顔をあげると、加恋が最高の笑みを浮かべていた。


「あははー、言ったでしょぉ? アタシってばぁ、誰にでも優しい愛され美少女だからねぇ。変に拗らせちゃった2人に、お節介しないわけ、ないじゃなぁい?」


「本当にありがとう。嫌な役回りをさせちゃってさ」


「ノープロブレーム♪ アタシはぁ、アタシが思った通りにやっただけだけよーん♪ あとでアイスくらいは奢ってもらうかもだけどぉ」


「アイスな、了解」

「ダッツでも可?」

「2個でも3個でも奢ってやるよ」

「やーん、太っ腹ぁ♪」


「ってわけで俺、今から夏美と会って話してくるよ」


 俺は決意とともに宣言した。


「わぉ! いい顔できるじゃん♪ 普段のクールなのもいいけど、今のシュートはすっごく情熱的で素敵だよぉ♪」


「それ、別の奴にも言われた」


「え? 別の? え、急に誰の話……?」


「悪い。これは俺とオレ(ソイツ)との内緒なんだ」


 困惑顔を見せる加恋の前で、俺はクルリと(きびす)を返すと、夏美が逃げ去った方向へと力強く走り出した――!

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