第63話 ジェットコースター
ファーストドロップに向けて、ゴトゴトとゆっくりとレールを上っていくジェットコースターの上で、
「動き出したな……」
「楽しみだね♪ ワクワクするね♪」
少し緊張気味なオレの右隣で、加恋は期待感に満ちた満面の笑みを浮かべていた。
そこには怖がるような素振りは全くない。
チラリと後ろの席に視線を向けると、夏美も楽しそうに眼下を見下ろしているのが見えた。
2人とも超余裕そうに見える。
「結構高さがあるけど、加恋は平気なのか?」
「うん。シュートは高いところは苦手? もしかして高所恐怖症だったり?」
「そういうわけじゃないが、高いところだと相応に緊張はするかな」
「あははー、大丈夫だってぇ。崖の上とかとは違ってぇ、ジェットコースターは落ちないように作られてるんだから、平気平気ぃ♪」
「それはそうなんだけどさ」
高さくる本能的な恐怖を、女子は男子ほどは感じないのだろうか?
「そんなに心配ならぁ、アタシが手を握っててあげるね♪ これで安心でしょぉ?」
そう言うと、加恋は安全バーを握っていた俺の右手に、自分の左手を重ねてきた。
「いや、いいよ。それにちゃんと安全バーを握ってないとダメだろ?」
「うん、ちゃんと安全バーを握ってるシュートの手の上に置いてるよね?」
加恋がちょっぴり屁理屈なことを言ったのと前後して、ジェットコースターが頂上を越えて、今度は下り始めた。
空を見上げていた状態から一転、がらりと景色が変わって、今度は地面が眼前に広がる。
そして下り始めたが最後、ガラガラガラッ! と盛大にローラー音を立てながら、ものすごいスピードで加速を始めた。
最高速度70kmに到達するファーストドロップの始まりだ――!
「始まったね~!」
「お、おぅ……」
緊張感で身体を固くするオレの隣で、
「あははー♪ すごーい♪ はやーい♪ いっけぇ-♪」
加恋がキャイキャイとはしゃぎ声を上げる。
「むう……っ! おおぉ……っ!」
前から吹き付けてくる強風と、普段はまず体験できない70kmというハイスピードにドキドキワクワクしながら、声にならない声を上げるオレ。
「キャー♪ キャー♪」
後ろからは夏美のキャーキャーと楽しそうな声も聞こえてきた。
三者三様にファーストドロップを楽しんで、再び上り始めたジェットコースター上で、加恋が早速オレに感想を伝えてくる。
「すごいスピードだったねぇ♪ もうマッハって感じぃ」
「ああ、あれはマッハだったよな」
加恋の言葉にオレはうんうんとうなずいた。
乗ったらわかる、さっきのはマッハ(音速)だった。
異論は認めない。
「風もすごかったよねぇ。髪が乱れちゃったから、終わったらもう一回セットし直さないとだしぃ」
「そうか? そんなに気にするほどでもないと思うぞ? ぜんぜん可愛いし」
再びの上りで速度が落ちている間に、手櫛で軽く髪を整える加恋にオレは思ったことを言ったのだが、
「女の子は気にするんですぅ!」
「だ、だよな」
ぷくーとふくれっ面をした加恋に強く言われてしまい、オレは慌てて同意したのだった。
「でも可愛いって言ってくれたのは、ありがと♪ 珍しいじゃんシュートがそう言うこと言うの、」
「いや、ただの客観的事実だ」
「やーん♪ ジェットコースターの上でもクールぅ♪」
なんて話をしている間に、再び下り始めたジェットコースターが、今度は休む間もなく垂直ループやコークスクリューといったコースを次々と駆け抜け、一周2分58秒の空の旅は大満足で終了したのだった。




