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第58話 怯える『俺』

 ◇


 その日の夜。

 オレは電気を消した真っ暗な自室で、ベッドの上に座って、ベッド脇の壁に体重を預けながら、物思いにふけっていた。


 ――物思いにふけるというか、最近顔を出すことが多くなったもう一人の『俺』との対話を行っていた。


 夏美と一緒に遊園地に行く(加恋も一緒ではあるが)。

 そのことを考えると、胸の中の『俺』がざわついてしょうがないのだ。


 苛立ち、怒り、悲しみetc...いろいろな感情に揺れる『俺』だったが、その中でも一番大きなものを端的に表すなら、それは「怯え」だった。


『俺』は夏美と遊園地に行くことに怯えていた。


「まったく。夏美も『俺』もどうでもいいことを気にし過ぎなんだよ。友だちと遊園地に行くくらい普通だろ? なにビビってんだよ? それともこの先、一生、遊園地には行かないつもりか?」


 誰に聞かせるでもない――『俺』に語り掛けるためだけの小さな独り言は、真っ暗な部屋に静かに消えていく。


「それに加恋にああも強くお願いされたら、断れないだろ? 友だちなんだからさ」


 高校生に友だちは必要だ。

 誰だってボッチにはなりたくない。


 できれば細川たち気の合う男子だけで十分だったんだが、なぜだかオレは加恋に気に入られてしまったもんで、そこはもうしょうがない。


「休日に友だちと遊ぶ。ただそれだけさ。それ以上でも、それ以下でもない。何も起こらないし、何も変わらない」


 起こるはずがないし、変わるはずもない。

 楽しく遊んで、また月曜日から学校に行く。

 ただそれだけのこと。


 だから怯える必要なんてないんだ。

 真っ暗な部屋の中で、オレは『俺』の怯えを解きほぐすべく、なんでもないってことを説いて聞かせていった。


 ただ1つ気になることがあるとすれば――。


「普段は押し引き自在で会話を盛り上げてくれる加恋が、妙に押しが強かったのだけは、気にならなくもないが……」


 コミュ力の塊みたいな加恋が、あんなに一方的に意見を押し付けてくるなんて。

 一言で言うと、らしくなかった。


「ま、高校に入ってから知り合った加恋の何を、オレが知ってんだって話だよな。ははっ――」


 オレは小さく苦笑すると、そのままごろんとベッドに横になる。

『俺』も一応は納得してくれたのか、胸のざわつきはほぼ解消されていた。


「明日も学校だし、そろそろ寝るか」


 真っ暗な室内で目を凝らして見た時計は、既に0:30を回っている。

 明日は――というかもう今日だが――体育もある。


 ただでさえ男女混合フットサルの練習は上手く行っていないんだから、睡眠不足によるパフォーマンス低下はまずかった。


 なんとなく窓ごしに見上げた夜空は、真っ黒な雲に覆われていて月も星も見えなかった。


 オレは天気で気分が変わったりはしないタイプなんが、なんとなく不安を覚えてしまう暗い暗い夜空だった――

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