第55話 合わない呼吸
ザ・チャラ男事件があってから数日の間。
オレはまたアイツが絡んでこないかと警戒していたのだが、さすがに懲りたのかザ・チャラ男がオレたちの前に顔を見せることもなく、おかげでオレたちは平和な高校生活を送っていた。
そうこうしているうちに、この前少し話していた球技大会の参加種目決めがあって、オレと夏美と加恋は3人とも希望通りに男女混合フットサルに参加することになった。
今日は球技大会に向けて、体育の授業を使ってのチーム練習が行われたのだが。
「ちょっとぉ? ナツミンとシュート、ぜんぜん息が合ってないよぉ? 緊張してるのぉ? リラックスだよ、リラックスー♪」
当然のようにチームを仕切っていた女王・加恋が、優しい言葉と人好きのする笑顔とともに――オレたちを傷つけないようにだろう――オレと夏美にダメ出しをしてきた。
「ご、ごめんなさい」
明らかに硬い動きでミスばかりしていた夏美が、申し訳なさそうに肩を縮こまらせる。
そんな夏美の隣で、しかしオレは反論を繰り出した。
「オレたちの息があってないのは事実かもしれないが、そうは言ってもだな? 男子の制限ルールがマジできついんだよ。もうまともにプレーできないレベルで」
高校生ともなると、男女の運動能力の差は歴然としている。
同じルールじゃ競うことすら難しい。
ということなのだろう。
うちの高校の男女混合フットサルでは、男子に対して「正直やり過ぎなのでは?」と思わざるを得ない、厳しすぎる特別ルールが課されていた。
1.男子はヘディング禁止。
2.男子は利き足で故意にボールを触るとファウル
3.攻守にかかわらず、男子から女子への故意の接触は全てファウル
4.女子の得点は3点
かなり男子に厳しいルールだろ?
オレは利き足が右足なんだが、ぶっちゃけ右足でしかボールをまともに扱えない。
なのに左足だけでプレーするとか、これではまともなプレーなどできるはずもなかった。
オレに限らず男子は皆、この「男子絶対に許さないルール」に大苦戦していた。
「激しく同意」
「まともにボールも蹴れないって言うか」
「俺はそもそも運動があまりだしな……」
「んだんだ」
オレの言葉に、細川たち他の男子メンバーも一様にうんうんとうなずく。
しかし加恋はそれくらいの言い訳はお見通しとばかりに、理路整然と詰めてきた。
「だからこそ息を合わせないとでしょぉ? チームプレーで補わなきゃ」
端的かつ明快な加恋の言葉に、
「……なるほど」
オレたちはぐうの音も出ないほどにうなずかされたのだった。
とはいうものの。
「夏美! ワンツー!」
オレは近く似た夏美に、左足でへろへろながらもなんとかパスを出すと、縦に走った。
ワンツーパス(いわゆる壁パス)をしようとしたのだが、夏美は身体をビクリと強張らせると、ボールをあらぬ方向へと蹴ってしまっていた。
「ご、ごめんなさいっ。すぐ取ってくるね!」
夏美が青い顔で、ガバっと頭を下げると駆け足でボールを取りに行く。
「ナツミーン! リラックスだよ、リラックスー♪」
「う、うん」
その後も、オレと夏美のプレーはどうにも嚙み合わないままで、
キーンコーンカーンコーン。
体育の授業の終わりを告げるチャイムが体育館に響き、練習は終わりを告げたのだった。




