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第53話 モノローグ 修斗&夏美

◇モノローグ 加賀見 修斗◇


 夜の自室で、オレは物思いにふけっていた。

 考えていたのはほかでもない、オレ自身についてだ。


 最近、ふとした拍子に『俺』が目覚めることが多くなった。

 少し前までのオレとは明らかに違っている。


 原因は明白だ。

 夏美と再会し、加恋と出会ったからだ。


 元カノの夏美と過ごす日々は、否応なく過去の記憶を呼び起こし。

 恋愛脳の加恋は無自覚に、オレと夏美の過去について幾度となく触れようとしてくる。


「もしかしたら無自覚ではないのか? 加恋はシゴデキだし、かなり頭の回転が速いもんな。周りもよく観察しているし。ま、他人の本心なんてウソ発見器でもなけりゃ、いくら考えてもわからないわけだが」


 大事なのは他人のことよりも、オレ自身のことだ。


 今日もそうだった。

 学校からの帰り道、ザ・チャラ男が夏美の手首を無理やり掴んだ時、「夏美を守るんだ!」っていう強い感情に突き動かされて、オレは『俺』に戻ってしまった。


 感情的で、ガキで、恋愛なんてどうでもいことに一喜一憂してしまう情けない『俺』に、完全に戻ってしまっていた。


 こんなことは初めてで、家に帰って物思いにも(ふけ)るというものだった。

 しかしいくら考えても結論は出てきはしなかった。


「これは何かの予兆なんだろうか……?」


 柄にもなく詩的なセリフをつぶやいてしまい、俺は慌てて(かぶり)を振った。

 

「――なーんてな。バカバカしい。恋愛なんてしょせんは人類が子孫を残すための付随行為に過ぎないんだ。なにマジに考えてんだよオレは。はい、やめやめ!」


 オレは大きく伸びをすると、立ち上がり、風呂に向かったのだった――。



◇モノローグ 釘宮 夏美◇


 学校からの帰り道、チャラい大学生にナンパされた私を修斗くんが守ってくれた。


『夏美に触るな』

 凛とした声で言った修斗くんは、年上の相手にすごまれても一歩も引かなかった。


「まるで昔の修斗くんに戻ったみたいだったなぁ……」


 思わず見とれてしまっていた。

 守ってもらえて嬉しかった。

 胸がキュンってなって、ドキドキと高鳴っていた。

 抑えつけていたはずの恋心が、あの瞬間に溢れ出てしまいそうだった。


 でも、だけど――。


「私にはもう、修斗くんを好きになる権利なんてないから」


『あの日』から、修斗くんは「恋愛なんてどうでもい」って言うようになった。


 そんなはずないって思う。

 あれだけ実直に、まっすぐに、一生懸命に想いを向けてくれた修斗くんが、そんな悲しいことを言うはずがないって。


 それはきっと――ううん、絶対に私のせい。

 私があんなことをしてしまったから、修斗くんは別人のように変わってしまったのだ。


「私は……最低だ」


 修斗くんと一緒にいるだけで、修斗くんのことを考えるだけで、私は罪悪感で胸が締め付けられてしまう。


 修斗くんの顔を見るだけで上手く喋れなくなってしまい、加恋ちゃんのコイバナを平然と受け流す修斗くんの顔色をこっそり窺いながら、毎日必死に笑顔を取り繕っている。


 嘘という厚化粧で塗り固められた笑顔は、最近すっかり板についてきてしまった。


 だけど加恋ちゃんに、


『あれぇ? ナツミンと付き合ってる振りをしたら、シュートは迷惑なの? ナツミン可愛いしぃ、むしろ役得だよねぇ』


 まるで探るように言われてしまい、ずっと抱え込んでいた罪悪感が、私の心の中で一気に爆発してしまった。


 あの時の私はまったく笑えてなかったと思う。

 動揺が、顔にも態度にも出ていたと思う。


「ちゃんと笑わなきゃ。ちゃんと嘘を突き通さなきゃ。嘘の笑顔で塗り固めなきゃ。好きな気持ちを隠さなきゃ」


 でないとまた、修斗くんに迷惑をかけちゃうから。


「大丈夫。だって私は嘘コク女だもん。嘘を付くのは得意なんだから」


 全部、私が蒔いた種だから。

 だから私は、最後まで嘘の笑顔を貫きとおし続けよう――

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