第49話「夏美に触るな」
「ごめんなさーい。今からアタシたち、待ちに待った放課後デートなんですぅ♪」
加恋がいつにも増してキャピキャピ声で言った。
「で、デートだと? だって男1人と女2人じゃねーか。冗談はやめろってーの」
「え? 冗談じゃないですよ? だってアタシたち2人とも彼のカノジョなんでー」
「えっ? はえっ?」
思わずといった様子で目を見開いたザ・チャラ男の前で、
「ねー、ナツミン♪」
まるで見せつけるように、加恋は俺の腕をギュっと抱くようにくっついてきて、さらにオレと夏美に合図をするかのようにウインクを飛ばしてきた。
「え、マジで……?」
オレの左腕に抱き着く加恋を見て、ザ・チャラ男が困惑した様子をみせる。
なるほど、そういう作戦か。
恋愛マンガとかでよくあるニセ彼氏ってやつだな。
このしつこい男とまともに会話しても無駄だと、加恋も思ったんだろう。
とっとと切り上げるために、こういうことを仕掛けたわけだ。
……2人とも彼女ってのはどうかと思わなくもないが、ザ・チャラ男にはそれを否定する明確な根拠はない。
オレもいい加減うっとおしかったんで、この話に乗らせてもらおう。
――ってなことは、察しのいい夏美もわかっているはずなのだが。
しかし夏美は動揺したように口を2,3度パクパクとすると、
「ぁ……ぇっと……」
目に見えておどおどし始めてしまった。
そして困ったように眉を寄せて、ジッとオレの顔色をうかがうように見つめてくる。
それを見て困惑気味だったザ・チャラ男が、勢いを取り戻してしまった。
「な、なんだよ、やっぱり嘘かよ。ま、2人とも彼女とか嘘なのバレバレだったけどなw」
笑いながらザ・チャラ男が夏美の手首を掴んだ。
狙うなら、慣れた様子で明確に拒否を示している加恋よりも、おどおどした夏美だとでも思ったに違いない。
「や、やめて……」
「いいからいいから」
「痛っ……!」
強引に手を引っ張られた夏美が、苦痛の声を上げる。
その瞬間、オレの頭は真っ白になった。
「夏美に触るなっ!」
夏美の手首を掴んでいたザ・チャラ男の手首を、俺は掴むと強烈に握りしめた。
握り潰さんとするほどの全力を込めて、思いきり手首捻り上げる。
「あぐぁっ!? いててててっ……!」
慌てて夏美から手を離したザ・チャラ男の手首を、俺はほとんど突き飛ばすようにして離した。
「夏美に触るな」
怒りを言葉に込め、強烈な敵意とともに睨みつける。
俺が一歩詰め寄ると、ザ・チャラ男は怯えたように後ずさりする。
「な、なにマジになってんだよ」
「夏美に触るな」
さらに俺が一歩詰め寄ると、ザ・チャラ男もまた一歩、後ろへと下がった。
「言っとくけど、先にナツミンに痛い思いさせたのはそっちだかんね。これ、正当防衛だから。周りのみんなが見てたから」
加恋がダメ押しをするように言う。
それでついに負け戦を悟ったのか、
「きょ、興ざめだぜ。なんだよてめぇ。バーカ。へっ!」
ザ・チャラ男は小学生みたいな捨て台詞とともに、逃げるように駆け足で立ち去って行った。
「――ト?」
俺はその後姿が完全に見えなくなるまで、全力の敵意とともに睨み続けていて――
「――ト? シュート、シュートってば!」
加恋が何度も呼ぶ声で俺は――オレはハッと己を取り戻した。




