第46話 3人での登校風景
それからというもの。
オレは学校がある日の朝は、まず地元駅で夏美と待ち合わせると、
「おはよう夏美」
「修斗くん、おはよう」
挨拶をして改札を通り、電車に乗るのが朝のルーティーンとなった。
「今日はいい天気だね」
「この時期は日差しがあると暖かくて助かるよな」
「でも温かいと、ついついベッドの中で二度寝しそうになっちゃうんだよね……」
「そればっかりは甘んじて受け入れるしかないな」
昨日もしたような、あまり中身のない天気の話や学校でのをしながら高校最寄りの駅に着くと、今度は加恋がオレたちを待っていた。
「おっはよーシュート、ナツミン♪」
加恋が笑顔とともにオレたちのもとまでやってくると、オレたちは高校へ向かう生徒たちの流れに乗って歩き出す。
ほぼ全員が通学路を同じ方向に進むので、3人並んで歩いてもギリ迷惑にならずセーフな感じだが、それでも急ぎの生徒や部活か何かで大荷物の生徒もいるので。
加恋と夏美が2列になって、オレはその少し後ろから会話に参加する形で、通学路を歩いていく。
話し上手な加恋が加わると、会話が一気に回りだした。
「ねぇねぇ、聞いてよぉ? 昨日、久しぶりにヴァイオリンを触ったらぁ、気が付いたら2時間も経っちゃってたんだよねー」
「ふふっ、加恋ちゃんはヴァイオリンが好きなんだね」
「自分で音楽を奏でるのはやっぱり楽しいからね♪ ゼロをイチにする感覚っていうのかなー」
「ふわっ、カッコいいなぁ」
「でしょでしょぉ? 小さい頃からやってたからぁ、結構手先とか器用なんだよぉ? ピアノもそれなりにいけるしぃ、細かい作業も得意だし。ナツミンとシュートは音楽はやってなかったの?」
「私は習い事はお習字だけだったから」
夏美が、筆を握って文字を書くようなエア動作を見せた。
多分ひらがなの「し」を書いたんだと思う。
「わっ、お習字いいじゃーん。綺麗な字ってぇ、それだけでモテカワ要素だしぃ」
「あはは……。でもペン習字はやってなくて普段の文字は丸文字だから、実はあんまり役には立ってないかも?」
その言葉に、かつて勉強会をした時に見た夏美の丸々としたいかにも女の子って感じの可愛らしい文字を、オレは思い出していた。
……心の中に立った小さなさざ波をオレがやりすごしているなど知るはずもない加恋が、「そういう話」を振ってくる。
「丸文字とかもっとモテカワじゃーん? ねっ、シュート♪ 丸文字カワイイよねぇ?」
歩きながら後ろを振り返って尋ねてきた加恋に、
「字が汚いよりは綺麗方が絶対にいいよな。読みやすいし、復習の時になんて書いたっけ、って悩むこともなくなるし」
オレは恋愛的な部分をスルーして答えた。
「うーん、まぁそれもあるよねぇ。あはっ♪」
加恋は笑顔のままだったが、少し答えに不満があったような口ぶりだ。
ツッコんでも面倒くさそうなだけなので、もちろん気付かないふりをする。
「そういえば修斗くんも字はけっこう丁寧だよね? パッと読みやすい字を書く感じっていうか?」
「一応、意識的に綺麗に書こうとはしてるな。でも授業で急いでノートをとってて間に合わない時は、汚い字になって、時々困ってる」
「わかる~! 板書を必死に書き写したのに、後から見たら汚すぎて読めないアレだよねー。世界史の外国人の名前とか、馴染みがないからパッと正解もわからないしぃ」
「学生あるあるだよねー」
「中学の時に、ロベスピエールだったっけ、ロペスピエールだったっけ? ってノートを見返したんだけど、『ベ』か『ペ』か判別つかなくて、調べたのを思い出したよ」
「修斗くん。それって答えはどっちだったっけ? たしかフランス革命の人だよね?」
「あー、いや……悪い。高校受験が終わって、もう覚えてないんだ……」
夏美の問いかけに、オレは小さく苦笑しながら答えた。
「ふふっ、それも受験生あるあるだよね。受験前の時の方が、今より絶対に頭がよかったもん」
「ぶっちゃけ春休みの間はだいぶ腑抜けてたから、否定はできないな」
そんな風に「受験生あるある」に花を咲かせていると、加恋がふと思いついたように言った。
「シュートの字が綺麗なこととか知ってたり、ナツミンってシュートのこと詳しいんだねっ♪ さすがオナ中♪」




