第35話 クレープ待ちの間に行われたごくごく平凡な会話
「犯人じゃなくてぇ、考案者って言って欲しいなぁ。なかなかイケてるでしょ?」
加恋がくりくりとしたお目めで、下からオレの顔を覗き込むように言ってくる。
己のあざとさを理解したうえで、どうだと言わんばかりに押し付けてくる、暴力的なまでの可愛さだ。
恋愛アンチのオレにはもちろん通じないが、普通の男子ならイチコロだろう。
「どっちでもいいんだけど、とりま、そのあだ名はやめようか」
「えー、なんでよー?」
加恋が不満を表すように、「ぶぅ!」と頬を膨らませる。
これまたあざと可愛いが気にしない。
「なんていうかその、言葉を選ばずに言うなら――」
「言うなら?」
「ダサくね?」
「本当に言葉を選ばなさすぎるよ!? もはや言葉のナイフで刺しに来てるレベルだよ!? っていうか? そんなことなくない? 『氷結のオレ様(アイス・オーレ)』、超かっこいいじゃーん!」
「……人の感性は千差万別だなぁ」
蓼食う虫も好き好きとは、よく言ったものである。
「それに男子であだ名がついてるのって、まだシュートだけだよ? ほらね、すごいじゃん? 女の子の初めて、素直に貰ってあげなよー」
ニマニマと笑いながらいかにも恋愛脳な言い方をした加恋を、オレは華麗にスルーした。
「ならせめてオレには聞こえないところで頼むよ。『氷結のオレ様(アイス・オーレ)』なんて聞こえた日には、羞恥心で胸焼けしそうだ」
オレは恋愛アンチだが、感情がないわけでもなんでもない。
当然、そんな呼び方をされたら恥ずかしいのである。
「クールに見えて、意外と照れ屋さんなんだね」
「別にクールなつもりはないんだが」
恋愛話に興味がないだけだ。
「めっちゃクールでしょー! そういうとこほんと『氷結のオレ様(アイス・オーレ)』なのにー」
そんな話をしていると、オレたちのクレープが焼きあがった。
「お待たせしました。3種ベリーの盛り合わせと、イチゴとホイップとチョコのベーシックになります」
「ありがとーございまーす♪」
「ありがとうございます」
素晴らしい営業スマイルで、出来上がったばかりのクレープを手渡してくる店員さん――途中、オレと加恋の会話を聞いてプッと小さく噴き出していた――に丁寧に答えてから、
「あそこの席にしよっ」
オレは加恋の後を着いていき、クレープ屋に隣接するフードコートのオープンテラスの一席に、向かい合って座った。
「4月の夕方なんてまだまだ寒いし、外の席じゃなくて中の方が良くないか? 中の席もいくらでも空いてるぞ?」
オレが疑問を口にすると、加恋らしい答えが返ってくる。
「外で食べた方がエモいもーん」
「エモいんなら仕方ないよな」
「話わっかる~♪」
エモさと寒さを天秤にかけて、前者が勝ったということだ。
事実、暗くなり始めた世界に街灯がキラキラと瞬きはじめており、なんとなく幻想的に見える。
「じゃあ早速食べよっ。いっただきま~す♪」
「いただきます」
エモい席を確保したオレたちは満を持して、クレープを食べ始めた。




