第34話『氷結のオレ様(アイス・オーレ)』
「シュート? シュートってば? 急に黙りこんじゃって、どうしたの?」
加恋の呼ぶ声で、オレは『中学1年の冬』から『現実』へと意識を戻した。
加恋が心配そうな顔を向けてきている。
「ああ、いや……なんでもない」
俺は小さく笑って誤魔化した。
「なんでもないって……。話しかけても返事は返ってこないし」
「クレープって久しぶりだなって、懐かしんでたんだよ」
嘘ではない。
その他にもいろいろと思うところはあったのだが、それについては言及していないだけだ。
「その割に、なんか変な顔をしてたけど?」
「変って、失礼な奴だな。親からもらった大切な顔なんだぞ」
これ幸いと、茶化して話を逸らしにかかる俺。
「シュートの顔はカッコいい方でしょ? そうじゃなくて。幸せそうなんだけど、でも辛そうにも見えなくもない、そんな感じだったっていうか?」
「なんだよそれ? 幸せと辛いじゃ正反対じゃないか。結局どっちなんだよ?」
「だからどっちも?」
「どっちもって……」
困惑する俺に、加恋は人差し指だけをピンと立てた右手を口元に持ってきながら、少し考える素振りを見せると、言った。
「なんて言うのかなー、感情的だったっていうか? ん~……、でもよくわかんないかもぉ? あ、そういえば『幸せ』と『辛い』って漢字で書くとそっくりだよね。あはっ♪」
思案顔から一転。
どうでもいいことを言いながら、いつもの人好きのする笑顔を向けてくる加恋。
「……」
しかしその本質に触れた指摘に、俺は思わず黙り込んでしまった。
本来の『俺』が出てきそうになると、どうしても『オレ』の存在は薄くなる。
さっきもそうだった。
そして『俺』は喜怒哀楽が大きい、かなり感情的な人間だ。
つまり加恋は今の一瞬で、『俺』が出てきかけていたのを見抜いたのだ。
恐ろしい観察眼だった。
やはり加恋は警戒しないといけない。
きっとよくないことが起きる。
――なんてオレは真剣に思っていたのだが。
「いつものクールな『氷結のオレ様(アイス・オーレ)』も悪くないけどぉ、情熱的な顔はすっごく良くて、思わずドキッとしちゃったぁ♪」
「アイス・オーレ? ――って、直訳すると冷たい牛乳のことだよな?」
加恋の口から飛び出たその謎すぎる言葉に、俺は再び困惑の滝底に叩き落されてしまった。
「んーとね。ちょっと違っててー。『氷結のオレ様』って書いて『アイス・オーレ』。シュートのあだ名。女子はシュートのことそう呼んでるよー」
「……は? ……え?」
なに?
どゆこと?
「どうどう、めっちゃ上手くない?」
加恋が自慢げな顔で言った。
「頼むからやめてくれ」
ある程度は何と呼ばれようと気にはしない。
だが、さすがに『氷結のオレ様』はないだろう????
「やだ」
俺の懇願はしかし、即答で拒否られてしまった。
「やだって……」
「だってぇ、せっかくアタシ史上最高に上手いのを考えたんだもーん」
「犯人お前かよ? いや、そんな気はしたんだけどな」
高校入学2日目はまだまだ人間関係の構築段階。
ゆえに異性をあだ名で呼ぶにはタイミングが早すぎる。
できるとしたら強い影響力のある人間だけだ。
例えばクラス女王の加恋のような。
以上、証明終わりQ.E.D




