第33話 クレープの思い出
クレープ屋のカウンターで2,3人が並んでいる後ろに着いたオレたちは、順番待ちの時間を使ってカウンターの上に掲げられた大きなメニュー表をそろって見上げる。
「今日のトッピングは何にしようかなー? 3種ベリー盛り合わせがイチオシなんだけどぉ、この前、食べたところなんだよねー。うーん、どうしよっかなぁ。ねぇねぇ、シュートは何にするの?」
「特にこれってのはないかな」
「強いて言うなら?」
「強いて言うなら、イチゴとホイップとチョコのやつかな?」
オレは加恋に答えながらメニュー表に載っているイラストを指さした。
「あ、それってナツミンが好きなトッピングと同じだねー」
……そういや、そうだったか。
少し迂闊だったな。
コイバナに結び付けられる余計な話題を、また加恋に与えてしまった。
っていうか朝ちょろっと会話しただけの他愛もない話を、加恋はよくもまぁ正確に覚えているもんだ。
オレなら絶対に忘れている。
とりあえず誤魔化しておこう。
「ベーシックなトッピングだから、そりゃ被ることもあるだろ」
「ベーシックだけで6種類あるよね?」
「たまたまだっての。ベーシックだけなら確率1/6なんだから、まぁあるだろ」
「全部のトッピングの中でなら、すごい確率だよね?」
「偶然ってあるよな」
「まぁ……そうかもね?」
「なんだよ?」
「別にー」
なんて会話をしている間に、オレたちの順番が回ってきて、
「アタシは3種ベリーの盛り合わせでぇ~♪ あとクーポンも使いま~す」
加恋は結局、大好物というベリークレープを注文し。
「オレはイチゴとホイップとチョコのをお願いします」
オレは例のクレープを注文する。
この話題に触れられたくなくてわざと頼むのを変えたんでしょ? とか加恋に邪推されるのも癪だからな。
そして加恋が夏美の名前を出したせいか、それともクレープの甘い香りに記憶が刺激されたからか。
オレの脳裏に懐かしい記憶がまざまざと蘇ってきた。
あれは『俺』と夏美がデートの途中に、クレープ屋に寄った時のことだ――
◇
『修斗くんはクレープのトッピングって何が好き?』
寒空の下、隣に並んで一緒に順番待ちをしていた夏美が尋ねてきた。
『うーん、俺はあんまりクレープは食べないから、特にこれっていうのはないかなぁ。そう言う夏美はどのトッピングが好きなんだ?』
『アタシは断然、イチゴとホイップとチョコのトッピングだよっ。甘さがギューって詰まってて、もう一口食べただけで、すっごく幸せになれちゃうの』
夏美がそれはもう嬉しそうな笑みを浮かべる。
それを見ただけで俺も幸せな気分になってしまい、当然こう言った。
『じゃあ俺もそれにするよ。夏美のイチオシをぜひ食べてみたい』
『やった♪ アベック・クレープだね♪』
『そ、そうだな』
夏美の口から出た「アベック」というなんとも古めかしい言い方に、妙に気持ちが高鳴ってしまう。
『あれあれ~? 修斗くんってば、顔が赤いよ? もしかして照れちゃった?』
『あ、暑いんだよ』
『あの、今は真冬だし。ここは外に面しているから、その言い訳はちょっと……』
『う、うるせっ。そういう夏美こと顔が真っ赤だからな?』
『だってアベック・クレープなんだもんっ』
『お、おう』
『えへへ、これからもいっぱいアベック・クレープを食べようね♪』
『だから顔を真っ赤にするくらいに恥ずかしいなら、そんなに何度も言うなよなっ』
俺と夏美は恥ずかしがりながら、順番が来たことを店員さんに告げられるまで、お互いの赤い顔を見つめ合った――
◇
――そんな過ぎ去りし日の思い出を、オレはつい思い出してしまっていた。
(俺は――)
オレの中で『俺』が小さく震えたのを、オレは心の中でそっとなだめすかした。




