第30話 放課後デートのお誘い
「でもよかったー。これでシュートを遊びに誘ってもいいってわかったし♪」
その言葉にクラスメイトたちが盛大にざわついた。
「あー、その、なんだ」
「なになに?」
「だからほら……中学の時より宿題とかも多いだろうし、しばらくは勉強をしっかりやっておきたいかなって思ってるんだ。最初の勉強で躓いたらこの先、大変だろうからさ」
周囲の関心がオレに向けられていることを肌で感じながら、オレは少し言葉を濁して考える時間を稼いでから、勉強を言い訳にして加恋にやんわりと拒否を伝えた。
もちろんオレは東大や早慶を目指すガリ勉くんではないので、入学早々そんなに熱心に勉強する殊勝な気持ちなど、猫の額ほども持ち合わせてはいない。
クラス女王の加恋を相手に、教室で露骨に拒否るわけにはいかないから、適当な言い訳を用意しただけだ。
でもパっと思いついたにしては悪くない言い訳だと思う。
「そうなんだー。シュートは真面目なんだね。ねーねー、今日の帰りに藤ノ宮 中央のモール行かない? 入り口のところのクレープ屋さんの半額クーポン、今日までだから行っておきたいんだよねー」
「……」
あのさ?
オレの話、聞いてなかったのかな?
喉元まで出かかった言葉を、オレはなんとか飲み込んだ。
ちなみに「藤ノ宮 中央」は高校最寄り駅の一つ隣の駅で、この辺りの中心的な地域だ。
ショッピングモールの他にも、ボーリング場やカラオケなどの商業施設がいくつも立ち並んでいて、この辺りの中高生が近場で遊ぶなら、まずここだろって場所だった。
(高校最寄り駅の周辺は、カラオケとドンキとサイゼ以外はあまり遊べる店がない)
それはさておき、言葉を飲み込んだオレとは対照的に、クラスメイトたちは口々に騒ぎはじめる。
「なっ、加恋ちゃんが加賀見にアタックしたぞ!?」
「放課後デートのお誘いとか、マジかー」
「やっぱあいつは『向こう側』だったな」
「俺も加賀見みたいに筋トレするかなぁ」
「加賀見のやつ、何年も毎日やってるらしいぞ? お前そんなに続くのかよ?」
「無理に決まってんだろ。3日も持たねぇよ」
「なんでそんなに偉そうなんだよ……」
「うるせっ」
男子は主に羨望の声を上げ。
「加恋ってああいう男子がタイプなんだね。ちょっと意外かも」
「別に、ちょっと遊びに誘っただけっしょ?」
「えー? 私は違うと思うけどなー。あれはラブだよLOVE。もう直感でわかっちゃうから」
「あんたの直感、当たった試しがないんだけど」
「そんなことないしー!」
女子はここぞとばかりにコイバナに結び付けてキャイキャイ楽しく盛り上がっていた。
加恋の興味の対象というただそれだけの理由で、昨日は誰も興味を示さなかったオレがこうまで目立ってしまう。
これがクラス女王の持つ絶大な影響力。
まさにインフルエンサー。
加恋が白と言えば、このクラスでは黒も白になりえてしまう。
そして、どうにも断りづらい雰囲気が一瞬にして形成されてしまった。
これでオレが加恋の申し出を頑なに断り続けたら、クラスで微妙な立場に立たされそうだ。
加恋本人は思わなくても、周りは思う。
「加恋に反抗的な男子」というレッテルがオレに貼られてしまう。
オレは恋愛アンチなこと以外は、高校生活をそれなりに楽しく過ごしたいので、周囲から腫物扱いされるのは避けたかった。
ま、一度くらいはいいか。
恋愛アンチのオレとのデートがつまらなければ、加恋は「誘って失敗したなー」と思うはず。
そうなれば、オレに構ってくることもなくなるだろう。
反抗的な男子と思われたくはないが、つまらない男子と思われることならば、オレはなんら構わない。
むしろ恋愛脳な女子から遠ざかれてウェルカムだ。
「じゃあ放課後にクレープを食べに行くか」
オレが観念してそう答えると、
「やった♪ 言っとくけど、ドタキャンはなしだからねっ♪」
「オレは約束は守るタイプだ」
「ふふっ、今から放課後が楽しみだなー♪ これなら授業も頑張れそうかも♪」
加恋はなんともあざと可愛い笑顔をオレへと向けながら、声を弾ませたのだった。




