第29話 加恋と夏美。そしてオレ。
「中学までと比べて、かなり大変そうではあるよな」
いくら馬が合わない恋愛脳とはいえ、クラスメイトで、隣の席で、しかもクラスの女王となるである加恋からにこやかに話をされて、それを無下にするほどオレは空気が読めない人間ではない。
なにより俺には目的がある。
恋愛なんてしょせんは人類が子孫を残すための付随行為に過ぎない、ただの電気信号なのだと『俺』に理解らせるためにも、オレは恋愛脳な夏美や加恋とも普通に友達をやり続ける。
それはそれとして。
「実はアタシも、ナツミンと一緒で数学があんまり得意じゃなくて~」
「女子は数学苦手な人が多いよな。って、なんとなくのイメージだけどさ」
いや、なんとなくどころか、夏美がそうだったってだけか。
元々陰キャで女友達がいなかったオレの女子への理解度は、夏美との付き合いで得た情報でほぼほぼ全部できている。
「多分合ってるよー。アタシの周りで、数学が好きな女の子ってほとんどいないし」
加恋がうんうんとうなずいていると、夏美が言った。
「わからなかったら修斗くんに教えてもらえるかもだよ? 修斗くん、数学が得意だから」
「あ、それほんと~?」
「昔から暗記系より理数系の方が得意ではあるな」
「やった、助かる~♪ シュートの隣なら、これから先、数学でわからないところがあってもいつでも教えてもらえるってことだよねー♪」
「わかる範囲でなら教えるけど、なにせ高校の数学はまだ未経験だからさ。できるかどうかは未定かな」
「またそうやって謙遜するしー。もうアタシの中では、数学でシュートを頼りにすることは決めちゃってるんだからね。頼りにしてるよー♪」
加恋がにっこりと素敵に笑う。
これがもし哀れな恋愛脳男子だったら、「加恋ちゃんがこんなに素敵な笑顔を向けながら俺を頼りにしてくれるなんて! もしかして加恋ちゃんってば俺のこと好きなんじゃ――!?」なんて思うんだろうが、恋愛アンチのオレはもちろんそんなことは露ほども思いはしない。
「善処はするよ」
俺は苦笑しながらうなずいた。
「でもでもー」
「なんだ?」
「ナツミンってシュートのこと詳しいんだね~♪ 得意科目まで知ってるなんて」
その一言で、
「え、あ、えと、そうでもないって言うか……」
夏美が目に見えておどおどし始めた。
さっきまで俺たちに向けられていた視線が、露骨に斜め下を向いている。
そんな夏美の様子を加恋がジッと見ていた――ように感じた。
笑顔のままでだけど、どこか夏美の反応を観察しているように感じる。
……ま、オレの気のせいかな?
加恋が言葉を続ける。
「ただの友だちって言ってるけどぉ、得意科目まで知ってるなんて、本当は結構な仲良しさんだったりしないー?」
「えっと、その……」
夏美が言い淀みながらオレを見た。
だからそういう恋愛脳みたいな反応はしなくていいって、何度も言ってるだろう?
オレは気にしてないんだから、夏美もイチイチ気にするなよな。
加恋も加恋で、何でもかんでもコイバナに結びつけやがってさ。
やっぱり合わないなぁと再確認しつつも、クラス女王の加恋に面と向かってアンチ恋愛の説教をするほど、オレは高校生活を捨てたいとは思ってはいない。
しかしいい加減この話を終わらせようと、オレは口を開いた。
「本当に何もないから。得意科目だって友達なら普通に話すだろ? ただそれだけだっての」
「なるなる、そうなんだね。ごめんねナツミン、なんか変に邪推しちゃって。許して~」
「う、ううん。ぜんぜん」
さてと、これで話は一件落着――と思ったのだが。
「でもよかったー。これでシュートを遊びに誘ってもいいってわかったし♪」
加恋のその一言で、教室中が盛大にざわついた。




