第22話 女王・加恋の男子カラオケ部屋、ご訪問(2)
「いや、なんていうかだな……」
「なになに~?」
自分がイケメンかどうかって話をしていた――なんて自分の口から説明するのは自己顕示欲の塊みたいでさすがに人として恥ずかしく、言い淀んでしまった俺の代わりに、
「加賀見がイケメンかどうかって話をしてたんすよ~!」
またまた細川が嬉しそうに答えた。
「そうなんだ~♪」
「そうなんすよー!」
さっきから細川は、加恋に対して丁寧語だ。
そしてすごく嬉しそうだった。
もし尻尾があったらブンブンと全力で振っていたに違いない。
まぁ、気持ちはわからないでもない。
加恋みたいな可愛い女の子に話しかけられて嬉しいけど、それと同じくらいにガチガチに緊張しているんだろう?
昔の『俺』がそうだったからな。
そのあたりの「持たざる男子」の心理は、手に取るようにわかってしまう。
自分たちとは関わることがないと思っていた天上界の女王様が、地上に降りてきて、しかも親し気に話しかけてくれたんだ。
そりゃ舞い上がるってなもんだろう。
だがな。
そんなに緊張しなくても、男と女なんてのは性別が違うだけで同じ人間なんだからな?
恋愛感情なんてのは、突き詰めればただの電気信号。
遺伝子を残すために人類が獲得した種の本能だ。
そんなもんにイチイチ気負う必要なんてないんだぞ。
ま、オレは聞かれもしないのに、己の価値観をイチイチ語って聞かせたりはしないが。
オレは恋愛アンチだが、空気は読める。
仲良くなったばかりのクラスメイトに、一方的にアンチ恋愛思想を押し付けたりはしないのだ。
「なーる♪ シュートって結構イイ線いってるもんねー」
「ですよねぇ! なのに本人は違うって頑なに言い張ってるんすよ」
「えー、そうなの? シュートってあんまり自分に自身ない系?」
右手の人差し指を立てて口元に当てながら、加恋が上目遣いの視線を向けてくる。
……実にあざとい。
「そもそもの話、オレは別にイケメンじゃないだろ?」
「えー? 背も高いし、筋肉質だし、かなりイケてると思うけどなー。ちょっとクールな感じも、加恋的にはかなりアリだと思うけどー」
「ですよねー!」
「俺らもそう思ってたんすよ!」
「ほれみろ、加恋ちゃんだってそう言ってるだろー。いい加減認めろよなー」
「んだんだ!」
俺が何かを言う前に、細川たちが盛大に加恋に賛意を示す。
完全に四面楚歌。
もはやこれ以上否定を続けるのはKY――空気読めない、だな。
ここはそういうことにしておくしかなさそうだ。
「自分じゃわかんないけど、みんながそう言うならそうなのかな?」
「ちなみに他の女子もシュートのこと大人っぽいねって褒めてたよ? 誰が言ってたか、名前聞きたい?」
「いや、特には」
「やーん、シュートってば超クール~♪ っていうかアレでしょ? シュートって、中学の時はバスケ部かバレー部だったでしょ?」
「残念ながら不正解だな。3年連続で帰宅部だよ」
「え~、うっそだ~!」
「ほんとだって。なんなら小学校からずっと、クラブとか部活動には縁がない人生だから」
「だって背も高いし、細マッチョだし。すっごく運動できそうな身体してるじゃん?」
言いながら加恋はオレの首筋やら胸、二の腕なんかを人差し指でツンツンと可愛らしく突いてきた。
力加減が絶妙で、なんともくすぐったい。
「それが加恋ちゃん。加賀見って筋トレが趣味らしいんすよ!」
「しかも毎日欠かさないらしいっす」
「筋トレ以外にも、ランニングも時々してるんだとか」
「んだんだ!」
またまた細川たちが、さっきオレがみんなに話したことを、今度は加恋に伝える。
まるで伝言ゲームをしているみたいだ。
「なにそれー。それもう表向き帰宅部なだけで、誰が見たって実質、筋トレ部でしょー♪」
「ですよねー!」
「俺らもそう思ってたんすよ」
「んだんだ!」
「筋トレ部って……でも言われてみれば、そうと言えなくもない……のか?」
「あはは、そうとしか言わないしー♪ 毎日筋トレしてるとかどんだけ筋トレ好きなのさー♪」
加恋が楽しそうに笑うと、細川たちも「ですよねー!」と追随する。
さっきまではオレたちの「実家」だったはずの男子部屋は、今やすっかり女王・加恋・親衛隊の拠点へと変貌してしまっていた。




