第2話 俺が恋愛不感症になったわけ。(2)
なんだろうと少し気にはなったけど、この時の俺ときたら、釘宮さんに告白されてハッピーフィーバー状態だったので、そんな違和感は全然気にはならなかった。
それに普通に考えたら、告白中に誰かが入ってきたら恥ずかしいし、気まずいもんな。
だから釘宮さんが周囲に注意を払っているのは、当然と言えば当然だ。
うん、きっとそういう理由に違いない。
頭ハッピーヘヴン状態だった俺は「どうでもいいこと」はすぐに忘れて、高揚感とともに釘宮さんに質問をする。
「あのさ、俺のどこを気に入ってくれたのか、聞いてみてもいい?」
知りたい。すごく知りたい。
平凡な俺のいったい何がk、キラキラ女子の釘宮さんに告白を決意させたのか、すごく知りたかった。
「え? あ、それは、その――」
しかし俺がそう問いかけると、釘宮さんが露骨に言いよどんだ。
そこで俺はハッとした。
しまった!
好きな理由を面と向かって本人に直接伝えるのって、かなり恥ずかしい行為だと思う。
告白するのも恥ずかしかっただろうに、さらに恥ずかしい思いをさせるとか、何を考えているんだ俺ってやつは!
「ごめん、こういうの聞くのは無しだよな。なんか浮かれちゃっててさ。調子にのっちゃたみたいだ。無神経でごめん。今のはなしで」
俺は慌ててそう付け加えた。
すると釘宮さんは胸の前で両手をワタワタと左右に振った。
「ううん、そんな、ぜんぜん。加賀見くんが謝ることじゃないから」
「そ、そう?」
「えっと、その……えっと、や、優しいところ……とか?」
ふおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっ!?
釘宮さんの言葉に、俺の身体に電流が走った。
なにせ中学生になっても、女の子とはろくに話したことがなかった俺である。
そんな俺が、釘宮さんみたいに可愛い女の子から「優しくて好き♡(意訳)」とか言われるなんて!!!!
「ありがとう、嬉しいな。今まで女の子にそんなことを言われたことって、一度もなかったからさ」
一面ピンクのお花畑になった心の中で、俺はピョンピョンと跳び跳ねていた。
今なら月までだって飛んでいけそうだ。
だけどそれと同時に、俺の心には大きな不安が押し寄せていた。
冴えないゲームオタクグループの俺と、キラキラグループの釘宮さんじゃあまりに不釣り合いすぎる。
今のままの俺だと、すぐに愛想を尽かされるかもしれない。
せっかく好きになってくれた釘宮さんに、絶対に嫌われたくなかった。
キラキラグループメンバーの釘宮さんにふさわしい男になるように、俺は変わらないといけない──っ!
言いようのない高揚感に背中を押されるように、俺の口が決意を語る。
「俺、頑張るから」
「が、頑張るって、な、なにを?」
おっとと。
あまりに気持ちが先走り過ぎて、言葉を盛大に省略しすぎてしまった。
落ち着けよ、俺。
もっとスマートな男子にならないと、早々に釘宮さんに愛想を尽かされてしまうぞ。
「釘宮さんと一緒にいても恥ずかしくないような男子に、頑張ってなるからさ」
「あ、うん……」
釘宮さんがまた、目を逸らすようにチラチラと教室の入り口を確認したが、俺はやる気に満ち満ちていたので、そんな些末なことはまったく気になんてならなかった。
その後はラインを交換して、
「そうだ。ラインの交換、しようよ」
「あ、うん。そ、そうだよね。交換するもんだよね」
OKを貰えたので、俺はいそいそとスマホを取り出した。
黒無地のシンプルなスマホケースだ。
同じく釘宮さんが取り出したスマホは、薄いピンクの女の子らしいケースで、立体的なシールであちこち可愛くデコってあった。
「すごいね、それ。かなりの力作だ」
「みんなやってるから、それでわたしも」
みんなってのは多分、釘宮さんがいるキラキラグループのメンバーのことだろう。
「釘宮さんがやってるなら、俺もちょっとやってみようかな?」
「ちなみに、意外と持ちにくかったりするよ?」
「あー、そうなんだ」
「だからゲームする時とかは、ちょっと不便じゃないかな? ほら、加賀見くんってよくゲームしてるよね?」
「じゃあ当面は保留かな。また機会があったらコツとか教えてよ」
「あ、うん……」
「俺さ、女の子とラインを交換するの初めてなんだ――って、ぜんぜん自慢できることじゃないんだけど」
「あ、あはは……そうなんだ」
なんて会話をしている間にライン交換は済み、俺は人生初となる女の子の連絡先――それも彼女だ!――をゲットしたのだった。
その後は、一緒に帰った。
帰り道も俺はすごく幸せだった。
釘宮さんはまだ告白の緊張が解けていないのか、少し心ここにあらずって感じだったけど。
緊張していたのは俺も同じだったので、釘宮さんから見たら俺も変に見えているかもしれないと思って、それを口に出すことはなかった。
まだ緊張しているのか口数が少ない釘宮さんに、余計な気を使わせないようにと俺はすごく会話を頑張った。
と言っても間違っても趣味のゲームの話をするわけにはいかず――女の子にゲームの話題が厳禁だってくらいのは俺にだってわかる――ほとんどは学校の話題だったので、そんなに面白くはなかったかもしれないけど。
ともあれ、こうして中学1年の冬に、俺に人生初めての彼女ができた。
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