第16話 今、教室の隣の席には、かつて俺に嘘コクをした釘宮夏美が座っていた。
そんな夏美にオレはもう一つ、伝えたいことを告げる。
「それと、さっきからのそのどんよりした話し方はやめないか? それは友達との話し方じゃないと思うんだよな。せっかくの入学式なのに、お互い気分が滅入るだろ? 明るくいこうぜ」
「えっ、私たち友達なの?」
すると夏美が驚いたように目を見開いた。
「なんだよその反応は? 別に別れたからって――いや待て? でもそっか、よく考えたらオレと夏美って友達だった期間はなかったのか」
告白されるまでは「話したこともないクラスメイト」。
告白されて「彼氏・彼女」になったけど、別れてからはクラスも別になってそれっきり。
つまり俺と夏美は友達になったことがなかったのだ。
おっと、これは意外な盲点だったな。
まぁだからどうというわけでもないし、昔話なんてどうでもいいっちゃどうでもいいんだが。
「うん……実はそうだったの」
「そっか。じゃあま、これからは友達ってことでいいよな?」
オレは軽い口調でそう告げた。
「私が……修斗くんの友達になっていいのかな?」
「だから俺は何も気にしてないって言ってるだろ? 友達になって普通に話そうぜ」
恋愛なんて大したことじゃないって『俺』が納得して次に進むためにも、夏美と友達になるのは意味がある。
別れても仲良くできるくらい、恋愛ってのは薄っぺらい関係に過ぎない。
これはそのことの証明なのだ。
「じゃあ、友達になろうね?」
「ああ、よろしく」
おずおずと、だけどさっきみたいにオレの顔色を窺うような素振りは見せずに言った夏美に、俺は軽くうなずいて返した。
なぁ『俺』よ、見ているか?
嘘コクとか別れたとか、『俺』はたいそうなことだと考えているみたいだが、実際はこんなもんだ。
思い悩むのがバカらしいくらいに、恋愛なんてもんはクソどうでもいいものなんだよ。
子孫を残すために人間という種に与えられた電気信号、いわばただの物理現象なんだから。
リンゴが落ちるのと変わらない。
リンゴが落ちることに思い悩むのは、偉い物理学者に任せておけばいいだろう?
って言っても、すぐには納得しないだろうけどさ。
ま、気が済むまで見てな。
これからもオレが、そのことを証明し続けてやるからさ――。
その後、友達になる儀式――つまりはラインを交換しようとして、
「私、その……修斗くんにブロックか削除されてるから」
「そういやそうだった」
オレは特にそのことを謝ったりはせず、夏美は2度目のライン交換をする。
夏美のアイコンは、付き合っていた頃とまったく変わっていなかった。
別にどうでもいい情報だが。
◇
そんな話をしている間に高校へと到着し、オレと夏美は入学式のある体育館へと向かう。
途中で張り出されたクラス分け表を見ると、オレと夏美は同じクラス、1年1組だった。
「同じクラスだね」
「5クラスしかないから確率は1/5イコール20%。確率としてはまぁまぁ高いからな」
「だ、だよね」
さらには入学式が終わって今年1年過ごす教室に行ったのだが、俺と夏美は隣の席同士だった。
俺の左隣に夏美がいる。
「隣の席だね」
「『加賀見』と『釘宮』はあいうえお順だと近いからな」
「だ、だよね」
というわけで。
今、教室の隣の席には、かつて俺に嘘コクをした釘宮夏美が座っていた。




