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第2話 起点  

教室は一瞬、静まり返った。セトスの言葉が、生徒たちの頭に重く響く。


「ゲーム……? モンスターを倒せ……?」


秀明は呆然と呟いた。だが、その静寂はすぐに破られた。


「ふざけんな! ゲームってなんだよ!?」


教室の後ろにいた男子生徒が、スマホを握りしめ叫んだ。彼の声に、他の生徒たちも我に返ったようにざわめき始める。


「そうだ! こんなの冗談だろ! 何だよ、モンスターって!」


「戦うわけないだろ! ふざけるなよ!」


女生徒の一人が泣きそうな声で叫び、別の生徒がスマホを机に叩きつけた。


鈴音も剣を握りしめ、スマホの画面を睨みつけた。


「秀明、こいつ……何!? ゲームって何!? こんなの、ふざけてるよね!?」


彼女の声は震えていたが、目は怒りに燃えている。


秀明はスマホを握り、セトスの影に向かって叫んだ。


「セトス! 出てこい! ゲームってなんだ!? なんでこんなことするんだよ!」


だが、セトスの声は冷たく、機械的に響いた。


「愚かな人間どもよ。我がゲームは、そなたらの生き残りを賭けた試練なり。反抗は無意味だ。クエストを遂行せよ。さもなくば、死あるのみ」


画面が一瞬暗くなり、セトスの影が消えた。代わりに、カウントダウンの数字が表示される。


19:59


19:58


教室に再び悲鳴が響いた。生徒たちの顔には、恐怖と絶望が広がっている。


「死ぬ……? 冗談だろ……?」


「こんなの、ありえないよ……!」


秀明はスマホを握りしめ、唇を噛んだ。セトスの声、その冷酷な言葉が、胸の奥で何か黒いものを膨らませていた。憎しみ――まだ名前のつけられない、だが確かな感情。


「秀明……どうする?」


鈴音が剣を握り、秀明を見た。彼女の目は、恐怖と迷いが混ざった光を放っている。


「どうするって……こんなの、従うしかねえのかよ……?」


秀明の声は低く、震えていた。鈴音は小さく首を振った。


「わかんない……でも、放っとけないよ。外、ヤバいことになってる」


鈴音の声には、いつもの活発さが欠けていた。彼女自身、何をすべきか定まっていない様子だ。


「秀明、とりあえず行くよ。モンスター、何とかしないと」


鈴音が教室のドアへ向かった。


「待て、鈴音! ちょっと待てよ!」


秀明は慌てて彼女を追いかけ、教室の隅で足を止めた。


 


教室の喧騒を背に、秀明と鈴音は廊下の隅に立ち止まった。外のモンスターの咆哮が、遠くから聞こえてくる。秀明は手に持つ白い本――無垢なる書 を見下ろした。重く、冷たい。武器というより、ただの分厚い本にしか見えない。


「秀明、これ……ほんとに神器なの?」


鈴音が剣を握り直し、声を低くした。彼女の剣、燃える信念 の刃に揺らめく炎は、弱々しく、まるで風に揺れる火のように頼りない。


「わかんねえ……でも、セトスがそう言ったんだろ。試してみるしかねえ」


秀明はスマホを取り出し、ゲーム専用アプリ を開いた。画面には、シンプルだが詳細なインターフェースが表示されている。


「秀明、早く! 時間、20分しかないんだよ!」


鈴音が急かすように言った。彼女の声には、緊張と不安が混ざっている。


秀明はアプリの「神器情報」タブをタップした。


【神器:無垢なる書】


説明:白紙の書。使用者の望みに応じて進化する魔導書。現在の状態では戦闘能力を持たない。進化条件:強烈な意志と欲求。


能力:なし


「能力なし……? ふざけてんのか、これ!?」


秀明は思わず声を荒げた。鈴音は眉を寄せ、秀明のスマホを覗き込んだ。


「秀明、落ち着いて……でも、進化するって書いてるよ。なんか、強い意志があれば、変わるんじゃない?」


「強い意志って……そんなの、急に持てるかよ」


秀明は 無垢なる書 を握りしめ、苛立ちを抑えきれなかった。セトスの声、モンスターの咆哮、すべてが彼の頭を混乱させていた。


鈴音は自分のスマホを開き、神器情報を表示した。


【神器:燃える信念】


説明:信念の強さに応じて力を発揮する剣。使用者の身体能力を向上させ、炎を纏った斬撃を放つ。信念が強ければ強いほど、効果は増大する。現在の状態:信念が不明確なため、能力が不安定。


能力:身体能力強化(弱)、炎の斬撃(弱)


「え……私の剣、能力が不安定? なにこれ、弱いってこと?」


鈴音は剣を掲げ、困惑した顔で刃を見つめた。炎は確かに揺らめいているが、ゴブリンを倒せるような力は感じられない。


「信念が不明確って……鈴音、お前、いつも自信満々じゃねえか」


秀明が言うと、鈴音は少し目を逸らした。


「う……まあ、確かに、こう、ビシッと決まった目標とかないけどさ……でも、剣持ってるんだから、戦えるよね?」


彼女の声には、いつもの活発さが欠け、どこか無理に明るく振る舞っているようだった。


「ステータスも見てみよう。どのくらい戦えるか、知っとかないと」


鈴音がアプリをスクロールし、ステータス画面を開いた。


【黒井鈴音】


レベル:1


攻撃力:10


防御力:8


敏捷性:9


「え、攻撃力10? 低くない? 剣持ってるのに……」


鈴音は肩を落とし、剣を軽く振ってみた。炎が一瞬揺れたが、すぐに弱まった。


「秀明、お前のステータスは?」


秀明は自分のステータスを確認した。


【檜垣秀明】


レベル:1


攻撃力:6


防御力:8


敏捷性:12


「お前より低いじゃん……弱すぎだろ、俺」


秀明はため息をついた。鈴音は苦笑し、秀明の肩を叩いた。


「まあ、秀明、敏捷性は高いし? 慎重な性格、こういうとき役立つよ。ほら、時間ないよ、行くよ!」


鈴音の言葉に、秀明は渋々頷いた。だが、胸の奥では、セトスへの憎しみが小さな火種となってくすぶり始めていた。


二人は廊下を駆け、校庭へと続く階段を下りた。


その時、背後で俊の声が聞こえた気がした。


「秀明! 黒井!」


振り返ったが、俊の姿はどこにもない。混乱の中で聞き間違いだったのかもしれない。


秀明は鈴音の背中を追い、校庭へと飛び出した。

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