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月灯り-第1話-

 日が落ち、空が暗くなる。

 雲はなく月は街を見下ろしている。

 街灯は太陽が居なくなった街を照らし、月などいないかのように人々の視界を確保する。

 学校が終わり、帰路に着く卯月優香はそんな街の中を歩いていた。

「昨日、東京都内で田中翔太さん17歳がどうなったか不明になりました。学校を出た後、連絡が取れて、警察が捜査を続けています」

 大型ビジョンに映し出されるそれには行方不明者を報道するニュースが流れていた。

(これで3人目…私も気をつけないと)

 ここ数日、高校生くらいの男女が行方不明になることがあり1日見つからないだけでもニュースになっている。

 卯月優香はそんなニュースを頭の片隅に置き、自販機の前で止まる。

 いつも買うジュースのボタンには大きな蛾が止まっており、仕方なくお茶を買う。

「こんな時間に1人で歩いてるなんて、ちょっと不用心なんじゃないの?お嬢さん」

 卯月優香が振り返るとそこには1人の男性がいた。

 黒い服に身を包む、いわゆる不審者というものだろう。

「なんかようですか?お金は持ってませんよ」

 卯月優香は冷静に言葉を発するが、内心は焦っている。

 夜、1人で帰宅している女子高生に話しかける怪しげな男、そして相次ぐ高校生の行方不明事件。

 それらが連なり、恐怖と緊張が走る。

「そんなに身構えないでよ。俺もジュース買いたかっただけだし。それに、俺が不審者だとしてもあそこに監視カメラがあるんだから何も出来ないでしょ」

 男が指さした方を見るとそこには近くの店の監視カメラと思わしきものがあった。

 しかし、ここで疑問が生まれる。

 ならなぜこの男は声をかけてきたのか。

 単に飲み物を買うのに邪魔だったからなのか、それとも何かほかに理由があるのだろうか。

 そのような考えが卯月優香の思考を巡る。

「行方不明事件、知ってるでしょ?俺はそれの原因を知ってる」

 突拍子もないことを言う男に対し、卯月優香は驚きを隠せなかった。

 指で蛾を弾き、ジュースを買う男。

 それは卯月優香に向き直り、言葉を続ける。

「お嬢さん、このままだと君が次の被害者だ。…抗う気はないか?」


 男の話によれば行方不明になる人の条件は完全ランダム、それを知る手段は一部人間にしか分からず外部に教えることは出来ないという。

「それを信じろって無理がありませんか…?信用出来る要素がひとつもありませんし」

 いつものジュースを片手に卯月優香は男に言葉を発する。

 男は予想通りといった顔をし頷く。

「そういうのもわかる。信じろって方が無理だろうな。だが、俺はお嬢さんを助けたいんだ。だから、少しお嬢さんのそばに俺を置いといてくんないか?」

 男は真剣な眼差しを向け、真剣に言う。

「嫌です。ジュースのお礼で話は聞きましたがこれ以上は普通に無理です。次話しかけてきたら警察呼びます」

 そう言葉を残し、卯月優香はその場を離れる。

 まぁ妥当だよなという顔をして男はお茶を飲み干し、ペットボトルをゴミ箱に捨てる。

 スマホを取りだし、クソ女とニックネームをつけた人に電話をする。

「紫、俺だ。まぁ無理だったよ。…服は関係ないだろ!とりあえず様子見て助けられそうなら助けるけど、期待すんなよ」

 男は電話を切り、ため息を着いた。


 鍵を手に取りドアを開ける。

 誰もいない家に帰ってきて手を洗う。

 いつものようにシャワーを浴び、髪を乾かしながらスマホを見る。

 そして気がつく。

 電波が届いていないことに。

「え…な、なんで…?」

 ドライヤーを置き、カーテンを開け外を見る。

 そこには1つの紅い月が浮かんでいた。

「…は?」

 変な声が出る。

 思考が止まる。

 月明かりに照らされ蠢くそれを見てしまったから。

 四足歩行をし、手足の他にもうふたつの腕のようなものを持つそれは形容しがたい醜い容姿で月明かりの下を歩いていた。

 まるで獲物を探すように。

 見つかったら死ぬ、そう脳が察知した一瞬目があった気がした。

 すぐに身を隠し、口を抑える。

 呼吸が乱れ、思考が停止する。

(なにあの化け物…見つかったら死ぬ、食われる…なんで、なんでこんなことに…)

 その時、男との会話を思い出す。

 男はたしかに、次の標的が卯月優香だと言っていた。

 そして、助けたいと言っていた。

 あの時、そばにいることを許可していればこの状態がどうにかなったかもしれない。

 そう考えれば考えるほど涙が込み上げてくる。

「…助けて…」

 僅かに発したその言葉をそれは聞き取っていた。

 近づいてくる足音、早くなる鼓動。

 卯月優香は死を悟った。

 しばらくの沈黙。

 次に聞こえた音は何かが落ちる音だった。

「え、えっと…そ、その…だ、大丈夫ですか…?」

 卯月優香が目を開いらき見た先には1人の少女が立っていた。

 少女の手には小さなナイフと先程の化け物の首が持たれていた。

 それを見て理解する。

 少女があの化け物を倒し、助けてくれたのだと。

「あ、ありがとう…」

 安心で全身の力が抜けたのか、卯月優香は立ち上がることが出来なかった。

 少女はあわあわしながら手を差し出して言葉を続ける。

「わ、私、睦月千奈って言います。えっと、安全なとこまで案内します…!」

 安全、その言葉が心を落ち着かせる。

 先程のように化け物がいるこの場所に安全な場所があるのか、そう考えるのと同時に化け物を倒してくれたこの少女が安全という場所なら信用出来る、そう感じた。

 睦月千奈の手を取り、立ち上がる。

 そして、卯月優香は自身の住処を手放すことを決める。

 紅い月明かりの下、2人はその場所へと歩を進めた。

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