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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

観覧車

作者: 壱原 一

古い賃貸の4階。台所シンク前に窓がある。


窓下は道路を挟んで暫く防風林が続き、海に面した観覧車へ至る。遠目を凝らして良く見ると、爪の先ほどの黒い影として乗客達を視認できる。


うち1台の赤みの強い深いオレンジのゴンドラで、**年前に事故が起こった。


乗客は20代前半と*歳のきょうだい。上の子は穏やかで優しく素直な一方、生来覆し難く非常に楽観的かつ短絡的な側面を備えていた。下の子は親と一緒になって上の子のこうした側面を補助する中で、非常に頼もしい側面を培っていった。


上の子は下の子や親や周囲の助力に応えようと努め続けた。幸い各々の尽力が報われ、適した職場を得た。


下の子に内緒で親と相談しながら、つい浪費しがちな賃金を蓄え、休日にチケットや移動費を賄って、大喜びの下の子の手をにこにこと誇らしげに引き、2人して乗り込んだのがあのオレンジのゴンドラだった。


下の子はその日、お出掛けが嬉しかった。上の子が己の面倒をぎこちなくも一心に見てくれて、己が喜ぶ様を喜んでくれる事がとても嬉しかった。


自分もお□ちゃんにそうだからだ。


だから下の子は上の子が叶えられそうなお願いを思い付くまま沢山した。次はあれに乗りたい。ここで2人写真を撮りたい。あのアイスクリームを食べたい。最後に観覧車に乗りたい。


抱っこして窓から外を見せて。


上の子は“お□ちゃん”をしたかった。大好きな下の子の日頃のように頼もしく振る舞いたかった。


上の子は背が高かった。下の子を軽々抱っこできる筋力があった。


頼られてとても嬉しかった。


そして事故が起きた。


歩き疲れて地上のベンチで座って待っていた親が、事故を知り、紙のように真っ白になって震えながら降りて来た上の子を見た少しあと。親は、自分が一体どのような顔で上の子を見たのか、今も絶えず己を呪うほど克明に思い知った。


自分が一体どのような顔で上の子にあんな顔をさせたのか。


何を突き付けてあんな境地に至らしめてしまったのか。


上の子の決行は早かった。


下の子を送る間も待たなかった。


以降、シンク前の窓から見える海に面した観覧車のあのオレンジのゴンドラには、遠目を凝らして良く見ると、爪の先ほどの黒い影として乗客達を視認できる。


もう動かない観覧車の、古く錆びついたゴンドラで、縦に長いのと小さいのが、2つ寄り添って座っている。


近く取り壊されるそうだから、そうしたら家に帰ってほしい。


ここでいつまでも待っている。



終.

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