77 最終決戦 中編
僕が赤ちゃんのお世話をしていた間も着実に魔王の力は削がれ続けて、階位は250を切っている。ここら辺で魔王に一発かますべく準備を始める。みんなも十一人がかりとは言えずっと全力で戦い続けられるわけもないから援護射撃しないとね。最終局面で僕の一撃が有効かどうか確かめる意味もあるのでちゃおちゃおって準備しちゃおう。
「貴様ら、絶対タダでは帰さないっちゃ。どうあってもその力奪ってやるっちゃ。」
「力を奪わないと満足に戦うこともできぬとは不憫なのだ。」
「まあこんな所にずっと一人でいるようだから酷な話ではあるでござるよ。」
「だからってうちらの力を奪っていいってわけでもないにゃ。」
「ワタシから勇者を奪った償いは絶対してもらうんだから。」
前衛はうまく連携して小さな傷をつけることに専念する。大きな傷である必要はないし、致命傷なんてまだまだ与えられるはずもない状態だ。魔王が突破口を開こうとしたり、陣形を崩そうとしてくるところを男性組が上手く立ちまわって魔王に隙を与えないようにしている。「活動制限改」の身動きできないのは既に対処されてしまったのでそろそろ活力と気力を削るのも対処されてしまうかもしれない。ってことで、準備もできてるしここらで一発お見舞いしちゃおうかな。通知の追加機能で皆に合図を送る。
『秒読み行くよ。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0』
0になる直前までこれまで同様に戦っていた全員が一斉に魔王から距離を取る。一瞬、魔王は不審がるがもう遅い。だって、僕の溜めた一発がすぐそこだ。
「かはっ。何をしてくれたっちゃ。何か入ってきたと思ったら体の中で弾けたみたいだっちゃ。」
誰かなあ、変な一発を想像したのは。
魔王の状態を確認するとほぼ期待した結果が得られている。今ので一気に階位が6減って200を切ったのだ。効果があったことを皆に知らせると、再び魔王との距離を詰めてこれまでと同じ戦法を継続しようとする。
僕がやったことを説明しておくと、前にユイトセインがフォルティスの郊外で見せてくれたワクワクしそうになるすごい一撃を僕なりに改造した技能だ。ユイトセインが見せてくれたのは大気中の魔素を集め、対象にぶつけて物理的な破壊をもたらすものだったが、僕の場合は溜めているMPを使用して対象のMPと相殺させるものだ。100万MPを使用した僕の一撃は見事に魔王の階位と相殺してくれたようで一気に減ったということだ。ただ残りMPは500万ほどしかないので今すぐもう一回使っても160ぐらいまでしか減らせないのでそこから魔王を倒しきるのはちょっと辛いかもしれない。
「もう少しってところだったのにひどいやつらだっちゃ。こうなったら一気に決めてやるっちゃ。」
魔王は何をする気だ。一気に決着をみたいなことを言ったくせに僕らとは対峙せずに、あの石像だった状態のように体の表面が変わっていく。
「カナタっ、傷をつけられないのだ。」
「ドライガンっ、お前の目一杯でぶちかませっ。」
「おうっ。せりゃあ~~~~。くっ。」
ドライガンの渾身の一撃も何の損傷も与えられないどころかアダマンタイト製の斧の刃が砕けてしまった。
「無駄だっちゃ。貴様らの攻撃では我の防御形態を突破することはできないっちゃ。ちょっと待つっちゃ。すぐに相手してやるっちゃ。」
なんと。この状態になっても言葉を発することができるとは驚きだが、それ以上にこの無敵状態に戻れることが予想外だった。てっきり勇者との決着前ではこの状態になれないと思っていたからこそ、わざわざ新勇者を連れてきたのだから。神意排他能力増幅機関が干渉してこの状態を制御しているのかと思いきや、魔王の意志で自由になるとはちょっと困ったことになってしまったかもしれない。
しかも、ちょっと待ってれば僕たちと再戦するつもりがあるようなことを言ってるように聞こえたが、魔王にとってのちょっとってどれぐらいだろう。年単位だとすると待ってられないんだけど、なんて少しボケようとしてそれが間違っていたことに気付いた時には手遅れだった。
「キャットっ!」
攻撃が通らないまでも牽制のために攻撃を続けていた前衛の中でキャトレーブが一番接近した時に突如現れた何かから放たれた何かに吹き飛ばされてしまった。
続けて他の者たちに向けても同様のものが放たれたが、小柄なキャトレーブのようには吹き飛ばされることもなくサンクレイド、プリメーラ、元勇者はその場に留まることができ、やや後方にいた男性組はその攻撃を弾き飛ばし、後衛組は躱すことに成功していた。さすが伊達に勇者、十英傑だったわけではないという実力の一端を見せつけてくれる。後衛組のヌフクールが吹き飛ばされたキャトレーブの様子を見に行くが、そんなに深刻な状況でもないようで倒れながらもキャトレーブ本人が高々と親指を突き出して大丈夫だと主張している。少し安堵したが、今の魔王の攻撃は一体何なんだ。金属製の筒状のものから弓矢のように何かを飛ばしたみたいだが、速過ぎて僕には正確に捉えることはできていない。みんなも同じかもしれないが、キャトレーブに対する攻撃を見た後だったので対処できたというところだろうか。武器も防具も試練の魔物巡りで得られた最高の素材と勇者機構の最高の技術でそれぞれの戦闘様式に合わせて最適化されたものを使用しているので、受け止めることもそれほどの難儀ではなかったかもしれないね。キャトレーブは七武聖の中でも一番小柄なので、攻撃を察知した時には完全に躱すこともできず踏ん張ることも諦めて逆に後方に自ら飛ぶことで防具で受け止めながら攻撃の威力を減らしたようだね。
「よくぞ今の攻撃を凌いだっちゃ。だが、この後はどうだっちゃ。」
金属製の筒の数が増えてさっきと同じ攻撃が続けざまに襲ってくる。が、不意打ちに失敗した攻撃を何度繰り返そうが無駄なことだ。前衛組は二度、三度ぐらいは武器で弾いていたようだが、それ以降は華麗に躱しながら徐々に距離を詰めて、攻撃を繰り出していた金属製の筒自体を破壊してしまった。
「あんまりワタシたちのこと舐めないでほしいんだけど。でもカナタにはいっぱい舐めてほしいんだけどね。てへぺろ。」
「貴様ら、何故この速さに対応できるっちゃ。初めて見たはずっちゃ。」
「これぐらいで驚かれては困るのだが。いかに速かろうが、最初の攻撃で筒の向いている方向に何かが飛んでくることは理解できたのだから、後はどうにでもなるのだ。」
「こんな攻撃で拙者をどうにかしたいなら辺り一面を覆いつくすぐらいの量を一斉に飛ばしてこない限り何度やっても無駄でござる。」
そうだね。僕も何回か見ているうちに筒から真っ直ぐにしか飛んでこないことは判ったので何かが飛び出す瞬間を見極めれば躱すことは容易だった。これぐらいできなくっちゃ金剛甲虫を技能なしで倒すことなんて夢のまた夢だよね。
僕たちは魔王と再戦するためMP集めに勤しんだわけだが、楽さだけを優先したわけじゃない。敢えて厄介な魔物を正面から叩き伏せられるように戦闘術も更に磨いてきたんだ。
今のが魔王の奥の手だとするなら、もう恐れる必要はないかもしれない。
ちょっと元勇者とじゃれあってもらってるうちに十英傑からMPを回収することにしよう。
ということで、元勇者のおあずけを解除してやる。
「え、もういいの。やったぁ。カナタのお許しが出たから覚悟するといいわ。」
「な、何をするつもりっちゃ。」
「何って決まってるじゃない。全身全霊でアンタに仕返しするのよ。」
勇者は装備を幻金属の大剣に持ち替えると無敵状態の魔王に向かって一閃する。
「何が全身全霊だっちゃ。何も」
次の瞬間、元勇者が斬りつけたと思われる辺りが爆裂した。
「何も、なによ。言いたいことがあるならちゃんと最後まで言いなさいよね。」
「き、貴様ら、ちょっとおかしいっちゃ。何でこんなことができるっちゃ。」
「何焦ってんのよ。魔素領域の壁を斬る要領で全力出しただけじゃない。そっちには大して損傷ないみたいだけど、こっちの武器にはちょっと負荷がかかっちゃうのよねー。さすがに幻金属の大剣を無駄遣いするのは躊躇われたんだけど、旦那様のお許しが出たから欲求不満解消もかねてワタシの怒りを受け取ってね。っしょ。」
次の一閃の後、僅かな時間差で再び爆裂する。
「ほら、もうダメになっちゃった。でも、まだ十振りはあるからちゃんと最後まで受け止めてね。」
「や、やめるっちゃ。」




