76 最終決戦 前編
十英傑の職位、技能の再構築、そして僕自身もさらなる技能強化を進めてきた。魔王が僕たちの力を奪えないように僕が作った職位と技能のみで構成するというのが基本方針だ。
そしてついに、その日が来た。
「皆、準備はいいかい?」
僕の言葉に、十英傑はそれぞれの想いを胸に頷いた。皆の表情には、以前のような悲壮感はなく、むしろ強固な決意と闘志が漲っている。なんてったって魔王に力を奪われる以前よりも遥かに強靭な存在へと変貌を遂げているんだものね。
「いつでもいけるにゃ!」
「カナタさん、ご武運を。」
フィオレンティーナに見送られて、僕たちは再び魔王のいる浮遊大陸へと転移する。
◇◆◇
「突いても突いても平気な顔してやがるぜ。」
「せめて気のすむまで殴っておくのー。」
「勇者がいないとこのままみたいにゃ。」
魔王は僕たちが力を奪われる直前の像の状態に戻っていた。
相変わらず、何をしようが傷ひとつ付かない無敵状態だ。
「仕方ないのじゃ。あの手を使うしかなさそうなのじゃ。」
そうですね。あまり気が進みませんがこの無敵状態を何とかしないことには何も始まりませんしね。
そして僕はこの場に二人の人物を転移させる。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。ほーら、パパでちゅよー。会いたかったでちゅねー。」
小さな赤ん坊を抱いた元勇者がなんか言ってる。誰がパパだ。断っておくが、この赤ん坊は決して僕が元勇者に産ませた子供ではない。
「カナタ、魔王の状態が変わるぞっ。」
そう。お察しの通り、この赤ん坊は元勇者が勇者でなくなった後に生まれた新たな勇者だ。勇者を前にしてしか力を奪いに来ないというなら、勇者を連れてきてしまおうというかなり単純な作戦だ。もちろん連れてきただけで万事が恙なく終わるはずはないのだが、先にすべて種明かしするのも興が削がれると思うので、これからどうなるか見守っていてほしい。
「随分と前回の食事から早いっちゃ。と思ったら、またお前たちだっちゃ。」
次の瞬間、魔王が例の技能を発動させると辺り一帯が眩い光に包まれる。
急いで状態を確認するが、予定通りで僕たちの力は奪われていない。やはり、魔王の能力は僕が作った能力に対しては無効らしい。十英傑と元勇者に視線で合図を送ると次の作戦が開始される。
「前回は早々に帰ってしまい申し訳なかったのだ。今回は心ゆくまでもてなすので最期まで付き合うのだ。」
「前菜は魔王の包み揚げなの。私は別にいらないからツヴァイクが食べるといいの。」
ここで魔王の表情が変わる。
「どういうことだっちゃ。なぜそんなに余裕があるっちゃ。っ!?体の自由が利かないっちゃ。貴様ら、何をしたっちゃ。」
「俺様はおっぱいなら何でもいいわけじゃねえぞ。だが、奪われた分は返してもらおうか。」
魔王の体の自由が利かないのは、ユイトセインが「活動制限」の改良版を使ったからだ。魔王の体の大きさは石像の時と変わらなかったはずなので、事前に「観測」で詳細に大きさを測っておいて最初からぴったり納まるように調節してあり、こちらからの攻撃を通す場所も把握できている。網目というか隙間の形はフィオレンティーナさんのあの縛り方を参考にしているので、魔王がそんな風にされていることを想像するとちょっともやっとしてしまうがあまり気にしないようにしよう。
ツヴァイクが槍を振るう度に僅かではあるが魔王の皮膚に傷がついては元通りになる。表面上の傷は再生されて魔王は何の損傷も受けていないようだが、二人の状態を確認している僕には異なる事実が見えている。ツヴァイクが傷をつけるたびツヴァイクのMPが増加し、魔王から技能が消えていく。これは相手の技能を奪ってMPに変換する効果を付与した僕とディスマルク特製の武器を使っているからだ。
「俺様はこれぐらいで満腹だ。次、いいぞ。」
「なら、次は吾輩がいかせてもらうのである。」
「うちも一緒にいただくにゃ。」
今回、僕たちの力が奪われないように対策を立てはしたが、前回の魔王の状態は階位、技能共にとんでもなかったので、弱体化させる必要があると考えて作ったものだ。相手の技能を奪って自分の技能にすることも考えたが、それだと魔王との間で技能が行ったり来たりするだけになるのでMPに変換してしまうことにしたんだよね。前回、MPは奪われる対象外だったからね。
「力が少しずつ削がれていくっちゃ。貴様ら、やめるっちゃ。」
「根こそぎもっていったアンタには言われたくねえよ。黙って奪った分返すんだな。」
「そうじゃな。人前で隠すべきところも隠さない礼儀知らずには言って判らせるより行動あるのみじゃ。」
階位は一撃で1下げるとまではいかないようだけど着実に減ってはいる。今400を切ったところだ。このまま順調に行けばいいんだけど、魔王も何か手を打ってくるかもしれないので油断は禁物だ。
「貴様ら、どうして戦えるっちゃ。これまでの奴らと何が違うっちゃ。」
「そんなの教えるわけないのー。聞けば教えてもらえると思ってるなんてあほなのー。」
「今ならかちんこちんちん切れるかもしれないなし。やってみるなし。」
ディスマルクとヌフクールは二人がかりで局所部分に攻撃を集中させるので、見てるこっちがもぞもぞしてしまう。だって自分にあんなことされたら痛すぎて耐えられないと思うし。
「くっ…我の力を舐めるんじゃないっちゃー。」
お?何をしたかはよくわからないが、魔王が「活動制限」の束縛を脱したようだ。階位はまだ340もあり、依然として僕らの階位とは大きな差がある。なんてったって僕らの階位は1だからね。ん?なんで階位を上げてないかって?それは僕らは階位に依存する必要がなくなったからだ。状態の攻撃力とかの能力値は階位が上がると連れて上昇していくというのは前にも言った通りで、実は隠し技能みたいのがあって階位が能力値算出に使われていたからなんだけど、僕が作った技能では能力を別の値に依存するようにしたからね。その別の値っていうのは状態にあったLUCとかのアレだ。あの数値も魔王には奪われていなかったみたいだし、元々さっき言った隠し技能でも使われてたみたいだったからそれほど難しい事じゃなかったんだよね。それに「運否天賦」との相性も良かったしね。そんなこともあって錬成系の練度が高い「捧げる者」達にも手伝ってもらい「運否の欠片」を作りまくって状態の底上げをしたというわけ。おかげでライラを筆頭にあちらのお相手もすることになりちょっと大変でした。
「ヌフ、ディス、お前たちは下がるのだ。ここからは七武聖がお相手するのだ。」
「あら、ワタシも混ぜてほしいわ。だって、まだ何もお返ししてないんだもん。」
「好きにするでござるが、子供連れでは危険でござるよ。」
「ねー、パパ。ってことでちょっと預かっててね。ママはちょっといってきまちゅねー。」
だから誰がパパだ。おー、よしよし。君は先代みたいになるんじゃないぞ。十英傑も多少イラついたようだが、今はそれより大事があるとわきまえて聞き流すことにしたようだ。
ユイトセインは今も新しく「活動制限改」を発動させているようだが、動きを束縛できてはいないので活力と気力の減少の方に注力を切り替えたようだ。階位がまだ高いので活力と気力も桁違いだが、階位と技能と共にこつこつ減らしていくのは想定通りの路線だ。
素早く動けるプリメーラを筆頭に元勇者、キャトレーブ、サンクレイドが前衛として魔王の四方を囲み、その後ろにツヴァイク、ドライガン、ゼクスベルク、さらに後ろがセットフィーネ、ユイトセイン、補助としてヌフクール、ディスマルクが控えるという布陣だ。僕だって少しぐらいやり返したいのに。赤ちゃんと一緒に最後方で待機だ。赤ちゃんをここから地上へ戻してしまうことも考えなくはなかったが、それで魔王が石像の無敵状態になってしまっても困るので大変申し訳ないが新勇者にももう少しご協力いただこう。お腹がすいたのか僕の胸のあたりをぺたぺたしてくるが、僕はお乳をあげることなんてもちろんできないので倉庫から用意しておいた本物のお母さんのお乳を出して飲ませてあげる。よしよし、たくさん飲むんだよー。お腹いっぱいになって満足したのかスヤスヤと寝息をたて始めたので、僕もちょっと準備を始めようかな。
ってことで中編に続く!




