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捧げる者  作者: 深香月玲
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73 魔王に会おう

「おー、ここが浮遊大陸か。内側を見てる限り普通の陸地と何も変わらないのだな。」


翌日、体調に不安がないことを確認すると十英傑と一緒に浮遊大陸に転移した。

降り立った場所はいきなり像の近くではなく、外縁部の方にしておいたのは情報収集という目的からして当然のことだろう。


「すごいにゃ。水平線が弧を描いてるにゃ。」


「ここから海に飛び込んだら楽しそうなのー。突撃なのー。」


ディスマルクが浮遊大陸の外に向かって走り始めるとキャトレーブもそれに追随する。相変わらず、こういう時の思考回路はお子様だな。こんな高さから飛び降りたらいくら十英傑でも水面に叩きつけられて余裕で死ねると思うからやめておこうね。


「ディス!止まるでござるっ!」


何かを察したのかサンクレイドが大きな声で制止する。ディスマルクはほぼ等間隔で並んでいる樹木の間で止まったが、後ろから来たキャトレーブが止まり切れずにぶつかるとかぶっていた帽子が前方に転げ落ちる。そのまま外縁から落ちてしまうかと思われたが、次の瞬間には帽子が何も残さずに消し飛んでしまったのだった。


「「のわーっ。」」


その光景を目の前にした二人はすっごい奇妙な悲鳴と動作で後退りしている。


「危うくキャットに殺されるところだったのー。そしたら化けて出てやるところだったのー。」


「人聞き悪いにゃ。サンクに感謝するにゃ。」


外縁ギリギリに外観を偽装する仕組みがあることは昨日フォルティスに戻ってから説明していたのでちょっと考えればそこに何かあると思って当然だったわけで無邪気にそこへ突撃するのが悪いと言えば悪い。でもさすがにこんな殺傷能力の高そうな仕掛けがあるとは思ってもいなかったけどね。


「遊びに来たわけではないのだぞ。」


「ごめんなさいなのー。」


「ごめんにゃ。」


素直に謝れる二人は良い子だね。って、もう30歳のいい大人なんだけどね。ちゃんとした大人のセットフィーネが倉庫(ストレージ)から出した矢を徐々に外縁の方に近づけていくとさっきの帽子のように外縁ギリギリのところで消し飛んでしまった。別の矢を弓に番えて放ってもみたが、外に飛び出していくことはなく同じように消し飛ぶだけだった。


「どうやらこの境界は何も通さないようじゃな。カナタの転移のような力がなければ内側に来ることもできなかったと思われるのじゃ。」


え?マジですか。

自由に出入りができない場所に魔王がいるということは…魔王もここから出られなかったってこと?勇者一行が来るまでひたすら待っているしかなくて、ここで大人しくしているしかないっていうことならいろんなことに説明がつきそうだ。


「なるほど。魔王はカナタのように転移することはできず下界には降りてこられない可能性が高いのだな。となると、ある意味で浮遊大陸は魔王を隔離している檻とも言えるのだ。」


「ということは勇者が決戦に赴くのもこの場所ということになるのかね。だとすると、どこかに転移門(ゲート)のようなものもあるのかもな。」


そうか。勇者は人知れず魔王との決戦の場に誘われるとされているが、それがこの場所だとするなら転移でしか来られないこの場所に来るには浮遊大陸のどこかに転移門(ゲート)のようなものがあって勇者たちが強制的に転移させられていると考えるのが正しいかもしれない。


「ツヴァイクがまともなことを言ったでござる。何か良くないことが起きるかもしれないでござる。気を付けるでござる。」


「俺様の扱いがひどすぎねえか。」


「逆に上等すぎるの。本当は同じ空気も吸いたくないの。」


「ひでぇ。」


「空気と言えば、ここはこんなに高い場所なのに空気が薄くないのは不思議なのである。」


「そういえば高地で修行した時はすぐ息切れしたよね。」


「多分、空気も通さないってことなし。」


あ、全然気にしてなかったけど言われればそうだね。ミースの前に立ち寄った高山地帯にあった都市のピレネアでは空気の薄さに慣れるまで魔素領域(ダンジョン)には行かない方がいいって言われたことと、実際に息苦しかったことを思い出したよ。もしかしたら今の僕には「真呼吸」があるから息苦しさを感じていない可能性もあったわけで、そこに思い至らなかったのは思慮が足りなかったかもしれない。危うく皆を危険にさらすところだったよ。ちょっと前に水中戦の可能性も考えたわけだし、MPもそんなに必要としないだろうから、まとめて皆に「真呼吸」を生やしておくのもいいかもね。


「にしても見渡す限り何もないのー。」


「では、周りにも注意しつつ魔王像を見に行くとしようか。」


◇◆◇


「この石像、おっぱいもあるけどおち〇ち〇もついてるにゃ。どういうことにゃ。」


どうしてこうなった。

最初は慎重に距離を置いていたはずなのに、像に何も変化がないのをいいことに徐々に近づいた結果もう触れるぐらいのところまで来てしまった。ここまで近づく間にもいろいろ確かめたが、やはり「探知」には何も反応はなく、状態(ステータス)を見ることもできない。「検索」だけにしか反応がないので、何かの間違いかと疑ってしまうぐらいだ。前回とは違って僕より強い十英傑全員が一緒なので気分は落ち着いてると思うけど、一瞬たりとも警戒は怠っていないつもりだ。

まだ触れてはいないが、見る限りでは石のような質感をしている。本当にこの石像が魔王ならぶっ壊せばお終いでいいのだろうか。


「カナタのより形が悪いの。それにカナタのはちょっとだけ左寄りなの。」


「なるほど、そう言われてみればそうなのだ。」


そんなのと見比べないでください。


「変なもの見せないでほしいのー。ちょん切ってしまうのー。」


「やめろよ。夢に見そうで怖すぎるぞ。」


ディスマルクが大きな鋏を錬成してアレを切り落とそうとするので、男の子としてはちょっとブルってしまう。ツヴァイクも同意見のようだ。だって自分のがああされたらと思うと平常心じゃいられないでしょ。


「意外に硬いようでござるな。」


「切れてないっすよー。ならあーしが砂塵に返すなし。」


あのー、一応「魔王」みたいなんで警戒は怠らないでくださいね。

まあ、アレを何とかできるなら全身も何とかできるかもしれないし、いろいろと試してみるのもいいのかもね。

しかし、この像が本当に魔王なら僕たちに何もしてこないのはなぜだろう。樹魔(ツリービル)の類で擬態しているとしてもここまで近づいて攻撃してこないっていうのはいくら何でも不自然過ぎる。だとすると、攻撃してこないんじゃなくて攻撃できないっていう方が正しいのかもしれない。でも、ちょっと違う気もする。うーん、他には何が考えられるだろう。


「傷ひとつ付かないなし。かちんこちんちん過ぎるなし。」


ちんがひとつ多いなし。

それにしてもよってたかって十英傑がいろいろやってるのに傷の一つもつけられないなんて丈夫とか頑丈で済む水準を通り越し過ぎてるんじゃないだろうか。もしかして、魔王は冬眠に近い状態にあってその間にどんな攻撃をされても大丈夫なように防御に専念しているとかないだろうか。なんで冬眠してるかって?そりゃあ何もないこんなところで一人でいたってすることもないし、普通に暮らしてればお腹もすくし…。あ、勇者という御馳走が来るまでこんな状態だとしたら…。


「とりあえず見るものは見たし、得られるものは得られたようなのだ。そろそろ戻るとするのだ。」


「あー、カナタがいるー。って十英傑(邪魔者)もいるのね。で、ここ何処なのかしら?」


何故、こんな時に勇者が来るんだよ。

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