70 未踏の地
今現在どこに浮遊大陸があるかも判らないので今すぐ「転移」で移動することはできない。せめて視界に収めている状態ならなんとかできると思っているが、謎多き存在なので転移するにしても十分な注意が必要だろう。
「そういうことなら海沿いの各地の勇者機構に連絡して浮遊大陸の現在位置を割り出す協力をお願いしてみてはどうだろうか。ついでに「捧げる者」たちにも通知してもいいのではないか。」
そうですね。勇者機構にはフィオレンティーナを通して正式に依頼するとして、「捧げる者」には僕から直接お願いするのが筋ってもんだろう。まずはフィオレンティーナに通知して、その後に「捧げる者」たちに通知すると改めて浮遊大陸について考えてみる。
浮遊大陸のことって学園ではそんなんありますよぐらいしか聞いた覚えがないんだけど、勇者機構にはより詳しい情報ってあったりするんだろうか。
「浮遊大陸を研究している部署があるとは聞いたことがないでござるよ。一つ所に留まっていることもなく不規則に移動し続ける上に陸上から見えるところにいる期間も限られる故、専門の部署にはしづらかったのかもしれないでござるよ。拙者もこれまでに一度しかお目にかかったことがないでござるな。」
へー、サンクレイドは見たことあるんだね。一回だけでも羨ましいかも。それでどれぐらいの大きさなんだろう。
「はるか遠方の上空を飛んでいたのでどれぐらいかはさっぱり判らないでござるよ。」
パラパラと「青」たちから通知で浮遊大陸の目撃情報が送られてきている。
それをまとめると南西大陸の最南端の都市ケイピア辺りで目撃されたのが最新情報になるようだ。三日ほど前に沖合の海上を東から西へ移動していったらしい。今は南西大陸と三日月大陸の間の大緑海のどこかにいるというぐらいしか分からないけど、沿岸部の人に呼びかけておけば素早く情報を得ることができるだろう。
「予定通りとはいかなかったようで残念でした。」
勇者機構の全面協力をとりつけたフィオレンティーナが合流してくれた。
今、勇者機構に存在する浮遊大陸関係の資料を集めてくれているらしい。
ただ、サンクレイドが言っていたように現在は専門の部署はないということだが、興味をもって調べている人はいるので、その人たちが中心になって情報を整理してくれるそうだ。謎だけが多く実利が見出せなかったことで勇者機構の仕事にはできなかったが、余暇に趣味として研究活動している集団もあったりするんだとか。
「それで、どのようなことが分かればよろしいのでしょうか。」
「一番いいのは浮遊大陸の地図情報があると助かるのだが、当然そのようなものはないのであろう。」
「そうですね。私の知る限り有史以降で浮遊大陸に到達した人はいない認識です。あの地には魔王がいるのですか。」
「今のところその線が濃厚というのが拙者たちの考えでござる。」
「ということは、これまでの勇者は浮遊大陸で…。」
そうだね。魔王が浮遊大陸にいるとなれば、勇者が最終決戦の場として誘われるのは必然的にそこになりそうだ。大昔の勇者の子孫とかがいれば、もしかしたら地図情報が引き継がれていたなんてこともあり得るかもしれないが、期待するだけ無駄だよね。
「伝承では勇者が魔王を倒してお宝を持ち帰ったなんて話もありますから、全くあり得ない話ではないかもしれませんよ。聞いてみるのはタダですし。」
そうだね。
万が一はあるかもしれないので、改めて全世界の人々に地図情報を確認してもらうのもありだろう。
「何にしても浮遊大陸の場所がはっきりするまでは俺様にできることは限られるってことだな。今日のところは浮遊大陸の地図情報を持っているかもしれないカワイ子ちゃんを探しに街に繰り出させてもらうとするぜ。」
はい、どうぞ。
空白地帯の地図情報を揃えるところまでは順調に進んだが、最後のところで躓いた感じになってしまってちょっと残念だ。ただ、ここで急いても仕方がないので浮遊大陸の情報が集まるまで、気持ちを切り替えてできることを考えることにしようか。
ということで、みんなそれぞれ思い思いのことをすることになり、ツヴァイクは本当に街へ出かけ、ドライガンとゼクスベルクは訓練を所望したので夢中生有を使ってあげた。女性陣は代わる代わる僕を愛でようとするので一度は逃げようとしたが、膝枕や後ろから抱き着かれる程度なので許容して今はなされるがままで考え事をしている。
浮遊大陸への最終的な移動は転移以外は考えられそうにないが、いきなり乗り込む必要はないし、そのための技能は既にある。そう、観測があるので、地図情報がほんの少しでも得られれば事前の情報収集が可能だ。魔王の普段の様子が判れば、様々な対策を立てることもできるだろう。ただ、浮遊大陸全体が魔王の秘密基地みたいになっている可能性もあるわけで、もしかしたら侵入者対策とかもいろいろされているかもしれない。何にしても、いきなり乗り込んで最終決戦を挑む必要はこれっぽっちもない。慎重に慎重を重ねて念入りに準備をするしかないよね。
とりとめのない考えに耽っていると僕が反応しないことに諦めたのかプリメーラ達は適当な時間になるとそれぞれ自分の部屋に戻っていった。
翌朝には勇者機構の有志による情報がまとめられて報告が上がってきていた。
まず、有史以降で浮遊大陸に到達したという記録は残っておらず、事実上の人類未達の土地であることが確認された。
そうなると当然地上からの観測でしか記録は残っておらず、描写されたものはあっても確からしいのは地上から見える下部が岩盤であることと、遠目で見える上部には緑が生い茂っていることぐらいで、建物などの人工物は確認されたことがないそうだ。描かれたものには想像図も結構あって、下部の岩盤部が切り離されて地上を攻撃するような要塞のようなものや、雲を纏って姿を隠すことがあるなんてどこかの天空の城みたいなのもあるそうな。
大きさは基底部は最大幅で10000mぐらいで最小幅が8000mぐらいとミースやフォルティスは無理だが、それより少し小さい都市がすっぽりおさまるぐらいなんだとか。それぐらいの都市なら転移門があってもおかしくない大きさだね。
飛行高度は低い時は2000mぐらいのこともあったらしいが、大概ははるか上空10000mぐらいに達しているそうで、とても空歩などの技能では到達不能だろうということだ。
しばらく同じ場所にいたかと思えばいつの間にか音もたてずに移動してしまっているそうで、現在の位置も高度も速度も移動経路も何もかも予測不能過ぎて、真面目に研究するのが馬鹿らしくなるんだとか。確かにこんな気まぐれで動いているようでは、ツヴァイクが次にどの女性に声をかけるか予測する方が余程容易いことだろう。だからといってツヴァイクを研究対象にする気にはなれないけどね。
とりあえず、ケイピアでの目撃情報をもとに南西大陸の西沿岸部と三日月大陸の東沿岸部で重点的に勇者機構による浮遊大陸の観測体制がしかれ、他の都市においても定時での観測が行われることになったよ。
我を助けよ、光よ蘇れとか唱えたら居場所を指し示してくれたらいいのにね。
そんな想いが通じたのか、昼前には浮遊大陸発見の報がもたらされた。




