69 いないいない魔王
どういうことだ。
念のため、もう一度「魔王」を検索してみるが、世界中のどこにも反応がない。
「どうしたのだ。魔王の居場所が判ったのではないのか。もったいぶらないで早く教えてほしいのだ。」
確かに以前に「魔王」は検索に反応があったんだ。絶対に見間違いなんかじゃなかったはずだ。その時に僕の持っていた地図情報の範囲が狭くて、範囲外に移動したと考えたからこそ、今まで空白地帯を含む全世界の地図情報を収集して準備をしてきたんじゃないか。なのに、今この時、「魔王」は世界のどこにもいない。三日月大陸、中央大陸、南西大陸、小大陸における空白地帯の全ては世界中の人たちの協力のおかげで地図情報は収集できているはずなのに。
「すいません。せっかく空白地帯の地図情報を集めてもらいましたが、反応がありません。」
「カナタのせいではないから気にする必要はないでござるよ。大陸にはいないのなら、恐らく大陸から距離のある島にでもいるということでござるな。」
さすがに海洋部分は全部は無理だが、沿岸部のある程度の範囲は集められている。それこそ船で行けるような近海の島にまで上陸するほどの撤退ぶりだ。
魔王はこの地図情報のない海洋のどこかにいるということになるが、未確認の大きな島があってそこに拠点でも造って暮らしているのだろうか。それとも…。
「まさか、魔王が魚の魔物で海の中に生息してるなんてことはないかにゃ。」
「そんなんだったら、オイラお手上げだよ。水辺の魔物は戦闘経験あるけど、水中の魔物なんて聞いたことないし、本当にいたら殴れっこないもんね。」
そうなんだよね。水辺に生息している魔物はそれなりにいるが、水中を泳ぐ魚のような魔物は学園でも組合でも聞かされたことはないし、実際の魔素領域でもお目にかかったことなんてない。そもそも、魔物の特性として探索者を認識したら襲い掛からずにはいられないはずで、それが水中でしか活動できない魚と似たような生態だとすると、体当たりとかしかけてきて陸地に上がった時点で探索者が絶対有利となるし、仮に遠隔攻撃を備えているとしても水辺から距離を取ってしまえばどうってことないわけだが、そんな魔物の存在はこれまでに一度も聞いたことがないのだ。
魔王が水中も自由に動けるような魔物で、これまでの勇者を水中に引きずり込んで勝利を収めていたとするならあり得ない話でもない気がするが、それならそれで僕たちには対策がないわけでもない。そう、ミリンダの豊満な胸で窒息死させられそうになった時に生えた「真呼吸」のような技能があれば、陸上ほどの動きはできないまでも水中で戦うことはできるだろう。「夢中生有」で訓練することも検討した方がいいかもしれないね。
「その「真呼吸」とやらいいな。すっごくいいぞ。胸の谷間にうずもれ放題ではないか。すぐ生やしてくれ。今すぐ生やしてくれ。」
水中戦対策を説明するとツヴァイクが変なところに反応しちゃったよ。さすがおっぱい星人。目の付け所が違い過ぎるね。せめて女性陣のいないところで言ってくれればいいのに。蔑みの目で一緒くたに見られたくないんだけど。
「カナタは全然悪くないのだから気にする必要はないのだぞ。寧ろ、自分の胸はうずもれるほどの大きさはないがいつでも使ってくれて構わないからな。」
「そんなことはないの。プリムのおっぱいはこの通り理想的なうずもれ具合なの。」
ユイトセインさんや。そんな羨ましいことをこの場で実証しなくてもいいんですよ。ほら、ツヴァイクの目が血走ってるじゃないですか。って、サンクレイドとセットフィーネに無理やり首を捻られて後ろ向かされてるんですけどアレ大丈夫じゃないよね。
「船旅してるとかありよりのあり?」
そういうことも無きにしも非ずか。ひとつなぎの大秘宝を求めて航海中とか。オレは海賊王になる、ってか。はて?
「勇者の言い伝えた海底都市伝説っていうのもあるのー。」
実は勇者の言い伝えじゃなくても、この世界にも海底に沈んでいる都市は実際に確認されている。以前にユイトセインと見に行ったクリーチ沖の海底都市遺跡もそのひとつだ。ディスマルクの言っているのは、竜宮城とかってやつのことだろう。なんでも、助けたカメに連れられて行った先が海の底の宮殿で、美しい姫に出迎えられて飲めや歌えの大歓迎を受けたんだとか。キャトレーブあたりは魚介類が食べ放題で一生帰ってこないんじゃないだろうか。
真面目な話に戻すと、本気で海洋部の探索を進めないと魔王の居場所が判らないままだとするならやるしかないのだろうか。うーん、それだと隈なく地図情報を集めるのってどれぐらいかかるんだろう。断然陸地より海の方が面積が多いのは地図を見れば明らかだ。適当に船を走らせたりすると隙間が出来ちゃうだろうし、せっかく集めてくれてもその隙間にたまたま秘密基地があったなんてことになったら元の木阿弥だ。それこそ陸地の空白地帯の時は個人個人の地図情報の取得できる範囲を確認してから隙間ができないように間隔を保ちながら一斉に移動してたらしい。海の上だと風や波の影響もあるので同じ手法は取れないだろうし、どうしたものかね。海洋部の地図情報を集めるための技能を作ってもいいのだが、そのために大量のMPが必要になってしまっては魔王対策に充てられるMPが減ってしまうことになるのでそれも避けたいところなんだよね。
「仮に海底都市とやらが本当にあったとして、深い海の底にあった場合は海の上からでは地図情報の取得ができんのではないのじゃろうか。同じように、陸地でも地中深いところに拠点を構えていたり、大きな山岳地帯を掘り進めたようなところも考慮せねばならぬとすると困難を極めるじゃろうて。」
「そういうことなら…いや、やっぱりやめておこう。」
「またドライガンが思わせぶりしやがるのー。どうせあんぽんたんなことだろうけど気持ち悪いからちゃんと言うのー。」
これまでの実績から言うと、ディスマルクの方があんぽんたんなことを言ってる方が多いと思いますけどね。
「…判った。なに、下を考慮するなら上も考慮する必要があると思っただけなのである。」
「上って山頂とか、遺跡にあるような高い塔のことかにゃ。」
「ほら、やっぱりあんぽんたんなのー。」
上、か。そうか空を飛んでいる可能性か。あれ?なんで気づかなかったんだろう。あるじゃないか。僕たちがまだ地図情報を取得していない大陸が。そう、謎に包まれた地、それは浮遊大陸。ドライガンさん、またもやお手柄です。
「なんでそうなるのー。また私があほ担当みたいなのー。」
浮遊大陸に魔王がいるとするなら前回の検索も今回のこともすべて説明がつきそうだ。
前回は浮遊大陸が僕の取得済みの地図情報の上空をたまたま飛んでいる時で、その後は海の上か空白地帯の方に飛び去ったのだろう。今回は取得できていない海洋部のどこかの上空にいるなら検索にかからないのは納得の結果ということになる。
浮遊大陸は本当に謎だらけで、まず大きな島というか陸地が空に浮いているのが理解不能だ。それもちょっと浮いているどころではなくて、かなりの上空にあって世界各地の空を不規則に移動し続けているということだ。僕自身は知識としてその存在は知っていたが、実際に見たことは一度もない。いやー、すっかり失念してたね。
「さすがカナタなのだ。自分も浮遊大陸のことなど考えもしなかったのだ。」
誉められちゃった。
「それで、どうやって行くのだ。」
あう。それが問題ですね。




