66 里帰り
一昨日、昨日、今日の三日をかけてゼノビアの残っていた都市をまわって今日の最終地はアムラダです。はい、聞き覚えのあるところですよね。何度かお伝えしていた通り、僕の生まれ故郷です。
「カナタさん、どうして浮かない顔しているんでしょうか。何か心配事でも?」
フィオレンティーナはすっとぼけているが、なにを企んでいるのか判ったものじゃない。なんせ今日は、というか一昨日の夜以降プリメーラ達を一切見かけていないからだ。順当に行って今日、アムラダに来ることは周知の事実だった。であれば、プリメーラ達が同行したがらないわけがないと思っていたのだが、その日は外せない用件があってとかなんやかんやで誰も事前から同行しようとしなかったんだよね。最初はそんなこともあるのかと納得しかけたけど、昨日は朝から誰も見かけないし夜の訓練もなしってそりゃ何か企んでいるって思うじゃない。それで今朝になって検索してみたんだけど、誰も引っかからないと来たもんだ。今の時点で僕が地図情報を持っていないのは南西大陸と小大陸の空白地帯と中央大陸の西方ギアードの空白地帯だけだ。揃いもそろって今日この日にそこに用事があるってどんな偶然だよ、とはならないじゃない。意図的に僕の検索網から外れたって考えた方が納得できる。フィオレンティーナは今日は朝から急かすように次から次へと用件を済ませようとするから、お昼ご飯もちゃんと食べていないし碌な休憩時間もない状態だ。それで、アムラダに来てみれば街中が僕を大歓迎していて面映ゆいやら逃げ出したいやらでちょっと落ち着いて冒頭のフィオレンティーナが浮かない顔と表現した状態になったところだ。
「アムラダには「青」はいらっしゃらず、全員が「紫」になっておりましたので、「捧げる者」であることを説明するために集まっていただいております。」
へー。それで僕は何をすればいいんですか。特にやれることなさそうですけど。
「何を仰っているんですか。全部カナタさんが説明するんですよ。」
へ?マジですか!?聞いてないよーの僕の声も空しく、「紫」の待つ部屋に問答無用で押し込まれると覚えのある顔もあり、懐かしい話で少し打ち解けたところで本題を話したんだよね。
「大いなる存在」のこと、「魔王」のこと、「捧げる者」、十英傑というか「始まりの十人」、「神意排他能力増幅機関」のこと。そして僕、「統べる者」のこと。
何も準備していなかったのでとりとめのない話になってしまったけど、それでもみんなちゃんと聞いてくれた。
「えー、手っ取り早くまとめると、この世界を救うために俺たちが送り込まれて、その親分がカナタってことでいいのか?」
そんな感じだね。僕が親分っていうのはちょっと烏滸がましいけどね。
「すごーい。わたしも世界を救う一人なのね。ちょっと興奮するわ。ほら、触ってみて。ドキドキしてる。」
学園の時の一つ上の先輩が僕の手を取って自分の胸に当てようとするのでどうしようか迷ったけどフィオレンティーナに目で促されてなされるがままにした。数瞬の後、力の流入が起こり、彼女の心と改めてつながったような感じになる。
「思い出したわ。学園の時にもこんな感じになった気がする。そっかぁ。一目惚れかと思ってたんだけど、こういうことだったんだね。」
別の男性が「俺も確かめてやる」とか言って彼女の胸に手を伸ばしたところで捻りあげられてしまった。「なんでカナタは良くて俺はダメなんだ」と抗議の声を上げていたが、「当然でしょ」の一言で済ませられてしまったのは仕方がないことだ。
「あーあ、わたしの初恋は勘違いだったのか。よし、新しい恋も探すけど、まずはキミを応援しなきゃだね。わたしにできることがあったら何でも言ってね。」
この先輩の後、全員と改めて絆を確認することができて良かった良かったで終わりになるかと思いきや、フィオレンティーナに慌ただしく急かされて場所を移動する。次は一体何が始まるっていうんだろう。
連れてこられた部屋の前には「婚約式会場」とある。「結婚式」とは違うんだとか、誰が婚約するんだろうとか、僕の知ってる人だろうかとかとか考えながらここでも問答無用で押し込まれてしまい席に座らせられて待つことしばし。
「カナタ、久しぶりだな。元気だったか。」
「久しぶりどころじゃないでしょ。全く。アムラダを出て行ったきり一度も手紙も寄こさないんだから薄情な息子よねぇ。」
現れたのは僕の父さんと母さんだった。何で二人がここに?って顔をしつつ、通知にちゃんと返事をしたことを抗議するが、そんなことぐらいで薄情じゃないなんてことにはならないと小突かれてしまったよ。はい、その通りですね。
「それではお待たせしました。これより婚約式を執り行います。進行役はフィオレンティーナが務めさせていただきます。」
なんか始まっちゃったよ。父さんと母さんが当たり前のように僕の両脇に座ると、美しく着飾った女性が何人も…っていうかプリメーラ達じゃないか。どこに雲隠れしたかと思えば、こんなところに来ているなんてどういうことだ。彼女たちも当然のように僕の向かい側の席に座ってことが進むのを平然と受け止めている。気が付くのが遅れたが、父さんと母さんも普段からは想像がつかないような恰好をしているじゃないか。父さんは探索者を引退した後は、畑を耕して生計を立て、母さんは手先の器用さを活かして美容師をしているので、母さんはともかく父さんがこんな洒落た服を持ってるなんてあり得ないんだけど。すると、もしかしなくてもこれって…。
「まずは、このような朝早くからお越しいただきましてジョー様、アスカ様には厚く御礼申し上げます。この度、プリメーラを初めとする十人は晴れてお二人のお許しをいただき、ここにカナタさんとの婚約が成立したことをご報告させていただきます。」
はぁ、やっぱりそういうことですよね。って十人?まさかの十英傑全員?いやいやいや、さすがにツヴァイク、ドライガンはないでしょ。ゼクスベルクなんてついこの間いい人見つけたばっかりじゃない。三人はこの場にいないから違うよね、なんて思っていたらいつの間にか僕の後ろに控えていた。え?まさか本当に!?僕、なんにも聞かされてないんですけど。
「婚約者を代表してプリメーラより誓約の言葉があります。」
「自分たちは、ここにご列席いただきました皆様を証人とし、いついかなる時もカナタと共にあることを誓います。魔王討伐を成就した暁には夫婦となり、日がな一日愛し合い、幸せな家庭を築くことを誓うのだ。」
そんなおめかししてるのに、こぶしを握り締めて何を力強く言っちゃってくれてるのかな。
「よくこんな十人十色の美人さんたちを口説き落としたもんだ。父さんにも一人ぐらい紹介してくれよ。」
父さんが母さんに聞こえないように小声で話しかけてくるけど、それを聞き逃す母さんじゃないよ。
「あんた、バカなの。どこの世界に息子の嫁を譲ってもらおうとする父親がいるのよ。あ、ここにいたわね。うちに帰ったら、判ってるわね。」
父さんも懲りないね。
「それでは婚約誓約書に署名をお願いします。なお、現時点で婚約者は十人となっておりますが、今後増えることを妨げるものではありません。」
へー、あくまで僕の意向は確認されないんですね。何か間違ってませんか。
僕の向かいに座っているプリメーラ、キャトレーブ、サンクレイド、セットフィーネ、ユイトセイン、ヌフクール、ディスマルクが順番に署名していき、次は後ろに控えていたツヴァイクたちが署名していくのかと思っていたら決してそんなことはなく、その後はフィオレンティーナが署名したのでちょっと胸をなでおろしたのだった。そうすると後の二人は誰なんだろうと考えていたらどこかで見た顔の二人が部屋に入ってくる。こちらも普段の作業着とは異なっていたので一瞬判らなかったよ。ライラとエクセラの二人だった。
「無事に署名も終わりましたので、こちらで婚約式は終了となります。この後は引き続きお食事を楽しんでいただきます。ちなみにお料理はエクセラ殿が腕を振るわれております。」
エクセラは料理を作っていて登場が遅れたらしく、ライラはみんなの衣装を作ったけど自分の分を忘れていて慌てて作っていて遅れたということを後で聞いたのだった。
この後、ツヴァイク達も加わり同じ食卓を囲んでエクセラの料理を堪能しながら歓談したんだけど、ツヴァイクがライラとエクセラにちょっかいを出そうとして痛い目に遭っていたよ。ツヴァイクも懲りないね。




