65 おさらい
昨日は休養ということで温浴施設に行ったはずが、勇者の乱入でそれどころじゃなかったよね。特にいい迷惑だったのはプリメーラだったことは間違いない。近いうちに労ってあげるとしよう。勇者は勇者で毎日のように僕に絡んでくるわけでもなく、きちんと階位上げに勤しんでいて、昨日はいろいろな偶然が重なったらしい。自分の命がかかってるわけだから真剣にならざるを得ないのは間違いないが、連日休みなく鍛え続けるのも現実的じゃない。だからと言って、勇者に甘い顔を見せるとろくなことにならないのは目に見えているので何かをしてやるつもりは特にない。
かく言う僕たちも寸暇を惜しんで自らを鍛えているのでそれほど余裕があるわけでもない。僕は今は「捧げる者」と会って力と地図情報を集めるので忙しいわけだが、相変わらず毎日それほど長い時間ではないが「夢中生有」で訓練も続けている。十英傑のみんなも似たようなもので、僕と自分のためのMP集めをしているが、適宜休養を挟みながら無理し過ぎない範囲で力をつけている。「捧げる者」たちに会いに行くのも折り返し地点を過ぎたし、そろそろ終わった後のことも考えないとね。
「アメインは初めて来ましたが、やはり世界最大の都市だけありますね。」
そうなのだ。今日は世界最大の人口2500万人をかかえ、世界で唯一6つの魔素領域を擁する大都市アメインに来ている。ちなみに人口2000万人を超える都市は他に3つあり、そのうちのひとつは僕たちが普段から拠点にしているフォルティスで、残りの2つもフォルティスと同じ三日月大陸にある。前にも言った気がするが、アメインは中央大陸と南西大陸を結ぶ要所にあり、さらに海路においても南西大陸を大きく迂回せずに通過できる運河があるために有史以前から栄えていたのは必然なのだろう。年中、温暖な気候で過ごしやすいというのも人が集まりやすい原因になっているのかもしれない。
「カナタさんとこんな美しい夜景が見られて最高です。」
今いるのはアメインの北側にある開放型魔素領域の中で一番見晴らしの良い場所として有名なところなんだそうな。フィオレンティーナがアメインの職員から仕入れた情報なんだけど、確かにこの夜景は一見の価値があると思う。ここからはアメインが一望でき、多くの色とりどりの明かりが眠らない都市を明るく浮かび上がらせている。高台の所為か通る風が涼気を含んでいて心地よいが、この場所に来るには探索者として相当の力量を持っていないと難しくて周りには誰もいないので二人きりだ。実は、僕は以前にというか結構な頻度でこの場所のすぐ近くまで来ていたんだけど、用を済ませた後にはすぐ転移で移動していたからこの場所の存在は知らなかったんだよね。その用というのは「試練の魔物」である大馬士革塊の討伐だ。この場所は大馬士革塊を倒した後のお宝が落ちている場所からさらに奥に進んだところにあるので、検索や転移がある故に虱潰しに魔素領域を踏破しようという気がさらさらない僕には気付くのが無理だったってことだ。なので、フィオレンティーナからこの場所のことを聞いたところ、その事実に気が付いてここに来る前にちょこっと立ち寄ってついでに大馬士革塊を倒してお宝も入手済みだ。フィオレンティーナはその僕の手際を見てなんか呆れていたような気がしなくもないが多分気のせいだろう。
「なるほど。これならミースにも大馬士革鋼が納入されるようになるのも頷けますね。見てるだけで階位が上がるって非常識にもほどがありますよね。」
なんてことを複雑な笑顔で言われはしたけどね。ミースの勇者機構局長であるクリスティアーナから通知でどうなってるんだみたいな問い合わせが来ていたらしい。他にも貴重な地金も納入されるようになって驚いているようだ。それはそうかもね。大馬士革塊と金剛甲虫は勇者機構総長エカテリーナとの約束もあるので基本的に検索で出現しているのを確認したら倒してるからね。それでも毎回大馬士革鋼や金剛鉄鋼が手に入るわけでもないので、相変わらず希少なものであることは間違いない。僕にとってはMP集めの副産物なので最初の内はそれほど重要視はしていなかったんだけど、勇者だけでなく十英傑の装備を充実させるためにもいろいろそれなりの量が必要だからということで希少なものを入手できる可能性のある魔物も積極的に狙いに行くようになっている。その代表例は八竜かな。
魔法や秘術には属性が8つあるんだけど、ちゃんと説明したことはなかったっけ。前にライラに作ってもらったジャケットは六大属性に耐性があるものだったことは覚えているだろうか。
火、水、土、風、氷、雷が六大属性で、これに光と闇が加わって八属性になります。この八属性の技能をすべて習得すると八芒星なんて呼ばれるようになったりするんだけど、別に状態に表示されるとかではなく八属性習得したんだ、すごいねっていうことに対する尊称みたいなものだ。人によっては適性の関係で習得できない属性もあったりするのでそう簡単なことではないようだ。この八芒星についても以前にさらっと流してしまったので改めてお話ししてみました。ちなみに六大属性習得で六芒星と呼ばれるようにもなり、六芒星で十人に一人、八芒星で三十人に一人ぐらいの割合でいるそうだ。それで話が回り道になりましたが、八竜っていうのはこの八属性それぞれの竜の魔物をまとめて言っています。火竜、水竜、土竜、風竜、氷竜、雷竜、光竜、闇竜だね。竜から得られる希少なものの一つが竜鱗で、非常に硬くて軽いので加工されて防具に使われることが多いんだ。さらに魔鉱石の上位互換という位置づけもあるので武器や装飾品への特殊効果付与にも使えるために引く手あまたの希少品だ。ということで、時間を見つけてはお宝を求めて魔物を倒しまくっている。
さて、素敵な夜景を見る美しいフィオレンティーナを見ることもできたし、本日残りのお仕事にとりかかるとしましょうか。今日はアメインの前に3つの都市しか回ってないけど、一日で会う「捧げる者」の人数としてはこれまでと大差ないというか一日に500人前後になるようにフィオレンティーナが調整してくれているんだよね。今日ここまでで279人に会っていて、アメインで会う予定の252人を足せば531人となるのでさすがの調整力だ。よっ、この才色兼備。
「まだ30分ぐらい余裕がありますけど街の方に戻られますか。それとも…。」
潤んだ瞳で見つめてくるフィオレンティーナは明らかに僕を誘っています。「捧げる者」が待ってますよーとか一応足掻いてみましたが、やると決めた魅惑的な大人の女性の手練手管の前には無駄な抵抗でした。多分誰も来ないとは思うけどこんなところで無防備にやり始めるわけにもいかないので、海底都市を見に行くときに作ったあの水晶球を倉庫から取り出すと、アメインの極上の夜景を見ながら短いひと時を愛し合いましたとさ。




