63 ツヴァイクる
昨日は大変お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳ございませんでした。
「カナタさんの坊やなところも見られたので良かったです。どうぞお気になさらず。」
いやー、ほんとどうかしてたよね。
切りのいい番号じゃないからってひねくれるなんて信じられないですよね。多分、高低差で耳キーンってなっておかしかったんとちゃいますか。
「それ、どこの言葉どすか。ようわかりまへんわ。」
僕の軽口に付き合ってくれるフィオレンティーナは優しいなぁ。
「今日は世界で最北端のウルティノースにも行きます。向こうは夜ですので運が良ければ綺麗な極光が見られるかもしれません。」
「その極光というのはなんじゃ。」
僕の生まれ故郷でも年に数回見ることができる極光はとても神秘的な現象だ。中央大陸の北の都市ほどよく見られるって聞いたことがあるよ。どんな原理かは皆目見当がついていないらしいけど、星空とは別に薄い光の幕が広がって色と形を変える様はずっと見ていても飽きることがないくらいだ。一度は見る価値があると思います。
「なんと、北の地ではそのようなものが見られるのか。是非とも、カナタに抱かれながら見たいものじゃな。」
「事前に知っていれば予定を調整できたのに残念なのだ。今日は月に一度の門派の指導日で外すことができないのだ。」
「拙者もはずせない用件があるでござる。無念でござる。」
「絶景に興味はないにゃ。うまそうな魚があったらお土産で買って来てほしいにゃ。」
「あーしも遠慮しておくなし。いつも通りいくつか献上されてるのを持ってきてほしいなし。」
「今夜はちょうどセッティーの順番なのー。たっぷり前戯してもらうといいのー。」
「セッティーに譲るの。」
「夢中生有」の中でのあの順番とかいろいろと思惑が絡み合っているようだが、相変わらず僕の思惑は考慮されることがないみたいだね。そしてこういう時に基本的に男性陣は自衛からか口を挟まないようにする。ま、いいけどね。
◇◆◇
「こりゃ、すげえな。」
「何故ツヴァイクがいるのじゃ。目障りなのじゃ。幻想的な極光が台無しなのじゃ。とっとと妾の視界から失せるのじゃ。」
「へいへい。俺様は極光の下での一夜のお相手を探しに行くとするぜ。」
「この痴れ者が。」
ウルティノースの地についたのは現地時間で23時ぐらいでまだ街は活発に活動しているはずだったが、明かりは必要最低限しかついていなくてほぼ真っ暗だった。おかげで満天の星空に重なるように大きく広がる極光がとても美しく輝いていた。これだけの極光はここでも滅多に見られないようで皆が自発的に明かりを減らして鮮やかな極光を堪能しているそうだ。
「妾はついているようじゃ。ツヴァイクは誰にも相手されぬじゃろうて。いい気味なのじゃ。」
それじゃあ僕はお勤めしてくるのでセットフィーネはゆっくり極光を眺めているといいよ。
ウルティノースには120人ほどの「捧げる者」がいるので結構な時間がかかりそうだからね。
「カナタと共に見られぬのが残念じゃな。またいつか一緒に見に来るのじゃ。」
そうですね。
地図情報も手に入ることだし、観測で極光が出ているか確認してから転移すれば間違いなくみられるしね。でも、そうしたらありがたみは薄くなりそうだ。似たような話で、ここの住人も知り合いから通知で極光の映像を送ってほしいとせがまれることがよくあるそうだ。でも、こういうのは肉眼で見た方がいいよね。実際に、通知で広まった極光の映像が評判になったようで、今年はウルティノースを訪れる人が増えているそうだ。へー、通知ってそんな使われ方もしてるんだ。各地の観光的な事業の後押しとかにもなりそうだね。
「組合が一定の探索者向けに依頼内容の映像を流すことで受託率が良くなったとか聞きましたね。それを真似て事業者が広告的に使うことも増えてきているみたいですよ。誰かさんのおかげで世の中が便利に変わって良かったです。」
「ほう、その誰かさんはよほど優れた人物なのじゃろう。そんな人物とは是非とも親密な仲になりたいものじゃな。」
二人共、なにを白々しいこと言ってるんでしょうね。そんな持ち上げたって何もありませんからね。ほら、「捧げる者」を待たせても気の毒です。とっとと済ませますよ。
「はい、参りましょう。」
セットフィーネを残して「捧げる者」たちに会いに行く途中で他にも通知の活用方法を聞いて驚いた。
「勇者機構でも貴重な資料の複製とかを作るまでもなく、映像で送れるのでかなり重宝してますよ。元々、映像を残したりできる道具はありましたけど、その記録媒体の輸送にはどうしても時間がかかりますので不便だったんですよね。それが通知のおかげで何処へだろうと一瞬で届いてしまうので一大革命ですよ。画期的な変化ですよ。歴史的な転換期ですよ。劇的な進歩ですよ。」
そんな大袈裟な。
通知を広めてからまだひと月も経ってないのに。
「大袈裟でも何でもありませんよ。もう、みんなカナタさんなしでは生きていけないカラダにされてしまったんですからちゃんと責任取ってくださいね。」
なっ、そこは僕じゃなくて通知でしょうが。それに責任ってどうやってとれって言うんですかね。
歩きながら僕の腕に身体をすり寄せてくるので、けしからん柔らかさが伝わりまくってきてます。
これはあれですね。昨日、情けないところを見せちゃったので僕のことを立てようとしてくれてるんですね。違うところが起っちゃいそうですけどね。
「昨日といい押し倒してもらえなくて残念です。」
え、なになに?僕ってそんなにこらえ性がないと思われているんだろうか。
「逆ですよ。たまには最初から欲望むき出しで押し倒されたいなあって思っただけです。続けてしてくれる時にはよくありますけど。」
あはは、確かにそうですね。って、そんなんで納得できるかぁ。そんなの四六時中ツヴァイクみたいになっちゃうじゃないですか。って、これはツヴァイクに失礼か。いや、そうでもないな。正式に「ツヴァイクる」という動詞を認めてもいいぐらいだ。コホン。この前のユイトセインの時にも言いましたが、僕の周りには魅力的な女性が多いのでいつも気を引き締めていないと流されまくっちゃうわけですよ。なので一旦始めちゃうと歯止めが効かないわけで、って何を言わせるんですか。僕は「統べる者」ですから、ちゃんとやるべきことは弁えているつもりなので。
「そうですね。カナタさんのそういうところも好きですよ。」
そう言って、僕の頬に唇を寄せてくる。
皆さんのそういうところですよ。僕に我慢を強いているのは。ホントに。
でも、こういうのが悪くないです。




