57 夢心地
しれっと再開?
「いくぞっ。躱せるものなら躱してみろ。」
「しゃべっている暇があるとは随分と余裕があるのだ。」
ツヴァイクの槍がこれまでにない速さでプリメーラを襲う。が、プリメーラはいとも簡単にそれを躱す。
ツヴァイクは躱された槍を素早く引き戻し、更に突くがプリメーラは剣も使わずにこれも容易く躱す。
引いては突く。躱す。無数の応酬が繰り返されるがツヴァイクの槍は一向に掠ることさえない。
「どうしたのだ、ツヴァイク。そんな攻撃では自分を倒すことなど到底出来ぬのだ。」
「くっそぉ。ちったぁ焦るぐらいしろってんだ。」
「一度死んで出直してくるのだ。」
プリメーラの剣が翻ったその刹那、ツヴァイクは自分の胸が貫かれていることに気付く。
「は…速すぎ…るだろ。」
プリメーラがツヴァイクの胸に深々と刺さった剣を抜くと、支えを失った体は地面に倒れ伏す。
「カナタ、自分の勝ちだ。どうだ、これでツヴァイクには負けなしの十連勝なのだ。褒めてくれていいのだぞ。チューしてくれてもいいのだぞ。」
こらこら、唇を突き出してくるんじゃありません。
それに、これはプリメーラが強いんじゃなくて、ツヴァイクが弱いように思える。
ツヴァイクは修練が足りないんじゃないのか。僕でも勝てそうな気がするよ。
「カナタ、それはあんまりだろう。俺様だって伊達に槍聖じゃないんだぜ。」
復活したツヴァイクが地面に胡坐をかいて不満そうにする。
説明が遅れたが、これはツヴァイクが死なない体になったとかいうのではない。
新しく作った技能「夢中生有」の能力だ。
今、僕たちは夢の世界というか、意識だけで繋がった世界にいる。この世界では現実と同じように自分の意識した通りに行動でき、技能も使用できる。魔物相手だと十英傑にとっては最早作業でしかないので、魔王対策としていろんな事態を想定した訓練ができないかと思案して作った技能だ。
夢の中なので斬られようが突かれようが魔法を喰らおうが現実の肉体には全く影響がない。なので、実践的な訓練がやりたい放題という訳だ。ただし、五感はそのままなので斬られたりすると痛く感じるし、最初に首が飛んだときは衝撃で本当に死んじゃうかと思った。だから、今は致命的な痛覚に対しては最小限になるように設定して衝撃を和らげている。それ以外は痛みがないことに慣れてしまっても困るのでそのままだ。
「ツヴァイク、次はうちとやるにゃ。」
「ちょっと休ませてくれよ。」
「いいカモだからすっきりするにゃ。かかってこいにゃ。」
「だーれーがカモだってぇ。そんな口叩けないようにしばいてやる。おりゃあっ。」
「にゃはははは。そんなの当たらないにゃ。」
華麗な足さばきでツヴァイクの攻撃を躱しては、デコピンを喰らわせているキャトレーブ。
「ってぇ。ちっくしょう。やりやがったな。」
「ツヴァイクはおっぱいが揺れると自然と意識がそっちに向くからダメなのにゃ。」
「なん…だと。」
そうなんだ。それで女性陣に対してはめっぽう弱いんだ。バカだ。
「これではおっぱい魔王だった場合、真っ先にやられるのはツヴァイクでござるな。」
「呆れて何も言えないのじゃ。戦闘中でも煩悩を捨てられないとは情けないのじゃ。」
「とんだスケベ野郎なの。とっとと死んでほしいの。」
「大丈夫だ。ユイの大きさなら揺れな…ふごぉっ。」
あ、顔の形が変わるぐらい蹴られてる。痛そー。
「それ以上言っちゃダメなのにゃ。十年前を忘れちゃダメなのにゃ。口は禍の元にゃ。」
「キャット、退くの。止めを刺すの。」
「あっちぃっ。悪かった。すまんっ。死ぬぅ。やめてくれぇっ。焼かないでくれー。」
「女性の敵なのー。馬鹿はこんがり焼いておくのー。」
「あはは、ツヴァイクが焼き鳥みたいになってるの超うけるんだけど。死なないように長くじっくり甚振る系?それとも繰り返し焼き殺して甚振る系?」
ドライガンとゼクスベルクは関わりたくないとばかりに二人で対戦している。
ツヴァイク、自業自得だ。ユイトセインの気が済むまで焼かれてろ。
「それにしても素晴らしい技能なのだ。まさか十英傑同士が手加減なしで戦える日が来るなんて思ってもいなかったのだ。」
「本当でござる。どういう仕組みかは全く分からないでござるが、技能までも再現できるなんてカナタはすごいでござる。」
「夢中生有」を作ってから毎日就寝前の数時間を皆でこうやって訓練に充てている。訓練後にぐっすり眠れると皆にも評判がいい。
あの第一回カナタに力上げます王決定戦が終了し、ご褒美としての務めを果たし終えると予定通りに地図情報収集と「捧げる者」に会いに行く世界各地巡りが始まった。今日で三日月大陸の空白地帯の地図情報が全て揃い、「青」に関するあの表示は「3770/10980」になっている。
魔王の検索については最初にして以降は実行していない。途中で検索するとまだかまだかで結局最後まで悶々としそうなので全部揃ってからにしようと思っている。
「青」に関しては基本的にMPとして力を受け取るようにしていてかなりの量になっている。自分で溜めた分と合わせると1500万近くになっているが、「統べる者」としての覚醒みたいなことは何も起こっていない。こちらも「10980/10980」になるまで変な期待をせずにその時を待つつもりだ。
「ところで…この中でアレをするとどうなるのか確認したいのだが。」
アレって…まさかアレですか。
そうだよね、気になるよね。僕も初めてした時には現実でも出てるんじゃないかと心配で心配で。
「カナタはもうしたのか。いつの間に誰としたのだ。」
誰とって、そんなの人と一緒にはしないでしょ。
あー、女性は連れだって一緒にしに行くとか聞いたことあるか。
「カナタは一人でしたのか。もったいないのだ。一度、自分としてほしいのだ。」
えー、プリメーラったら何言っちゃってんの。
僕と一緒にしたいなんておかしいでしょ。
「…話が嚙み合っていないみたいなのだ。カナタはアレを何だと思っているのだ。」
…おしっこ、じゃないの?
なんでか催しちゃって焦っちゃったことがあったんだよね。
プリメーラも突然尿意に…違うの?
「それはそれで一緒にしてみたい気もするが、先日一泊二日で夜通ししたようなあっちの方なのだ。」
顔を真っ赤にさせてのたまうプリメーラは可愛い。
へー、アレがしたいんだ。夢の中でもしたいだなんてプリメーラは本当にアレが好きなんだね。
「ち、違うのだ。ア、アレが好きなのではないのだ。カナタにしてもらうのが好きなのだ。それにこの中なら心配ないから中にしてくれるんじゃないかと…思ったのだ。」
あー、そういうことか。
もちろん僕は無責任に女性の中にぶちまけることなんてしてませんよ。
隙あらば種を搾り取ろうとする人はいなくはなかったですけどね。
これから一緒に魔王をどうにかしようという十英傑に妊娠、育児なんてさせられませんから特に気を付けるようになりました。家族計画はきちんと立てましょう。
「…ダメなのか。」
しょんぼりするプリメーラも可愛いけど、こんな顔のままいられると僕も心が痛む。
プリメーラの手を取ると適当なところへしけ込んで要望に応えたのであった。




