第七話 戦乱の始まり その七
更新です。Twitterでも活動しているので是非。「あやかしばかし」という作品も連載しているので見てみてください。
式が終わり、新入生が自分達の教室に移動し終わった頃、晴人の所属する士官科1-Aクラスは異様な雰囲気に包まれていた。
それもそのはず、晴人の行動によって式は混乱、多くの生徒は困惑のまま席に着いているのだから。当の晴人はというと周りの視線に我関せず、机に取り付けられた電子端末を操作しながら今後の学校スケジュールの確認を行っていた。
この学校は軍にとって優秀な士官を育成するための教育機関である。つまり、行動の一つ一つが自分の将来を左右すると言っても過言ではない。だが、今この瞬間、晴人以外の生徒にとって晴人は異物でしかない。
学年主席でありながら入学早々全くもって理解できない行動をし、だというのに教室では黙々と作業をしている。あれが何かのパフォーマンスであるのなら教室でもそのように振る舞うだろうに先程からそんな気配は一切感じない。
晴人に視線を向ける彼らの頭の中には何故、そして何のためにという疑問が浮かび、緊迫した空気が教室を支配する中、静かに入り口のドアがスライドした。自動ドアであるため開閉時の音はかなり小さく、気にもならないはずだと言うのに異様な程に静まり返ったこの部屋にはその小さな音すら皆が反応してしまう轟音に聞こえてしまった。
「失礼する」
そう一言、力強い声を発し、開いたドアからかなり体格の良い生徒が入り、そのまま脇見を振らず一直線に窓際最後列に座る晴人の元へ近づいてきた。
「先程の式での発言、あれは一体どのような意図があったのか説明してもらえないだろうか?」
(まぁ来る奴はいるか)
晴人は端末を閉じ、声をかけてきた生徒の方へ視線を向けた。
「あなたはどなたですか?」
「これは失礼した。私は執行部所属士官科3-Aの倉敷勇だ。では改めてあんなことをした理由を聞かせてもらえるか?」
倉敷勇。百八十cm後半もあろうかという上背ながら制服越しでもはっきりと分かる筋骨隆々な体躯、短く剃り上げた頭に鋭い眼光で睨まれれば委縮してしまう迫力がある。士官科で最も優秀な生徒が集まる3-Aの中でも上位十名に入ると言われる程の実力者で宮内も堅実だが確かな実力があると評価していた。
そして彼は自己紹介に執行部所属と言ったということは統括本部の下につく執行部として晴人に話を聞きに来たということだろう。
「理由なんて特にないですよ。あれが正しいと思ったからそうしただけです」
「正しい、か。君にとっての正しさがあの行為だったということか?」
「行いどうこうなんて話じゃないですよ。俺がそう判断したんです」
「自身の判断が正しいと何故言い切れる?」
「個人の正しさなんて他人にとやかく言われるようなものでもないと思いますけどね。言及したとして何の意味があるんですか?」
お互い穏やかな口調ながらその雰囲気は険悪そのもの。教室にいる他の生徒は二人の空気に圧倒され、ただその行方を見ることしかできなかった。平行線を辿り続ける会話に倉敷の視線はより鋭くなり、胸の前で組まれた腕には力が入っているように見える。晴人もまた椅子から立ち上がり、倉敷に向き直った。
「倉敷さん。あなたはそんなことを言うためにわざわざここまで来たんですか?」
晴人はもう分っている。彼が何のためにこの教室に、自分の元に来たのか。そしてそれが誰の差し金で、自分がどうするべきなのかも。式での振る舞いによって引き起るであろう事態の予想は簡単にできていた。だからこの後、倉敷が何を口にするのか晴人には分かっていた。
「確かに、それもそうだ。祈上晴人、」
「君に決闘を申し込もう」
なんだか不穏な雰囲気ですね。
キャラ名:倉敷勇