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星降ル夜ノアリアドネ  作者: 東上春之
第一章 戦乱の始まり
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第六話 戦乱の始まり その六

更新です。Twitterでも活動しているので是非。「あやかしばかし」という作品も連載しているので見てみてください。

 宮内から総代挨拶が入った封筒を受け取った晴人は会議室から出て巳門と共にステージ裏の控室へと向かっていた。


「ねえ、祈上君」


 隣を歩きながら特にこれと言って話をしなかった巳門が、ふいに口を開いた。


「何ですか?」


 そう聞き返した晴人の目には先程までとは全く違う、会議室で見せていた少し気の抜けた調子が剥がれ落ちたような神妙な面持ちをした彼女が映っていた。晴人の視線を感じると巳門は立ち止まり、慎重に自分の中で言葉を選びながら晴人に質問を投げかけた。


「・・石井鈴さんは君にとってどんな人?」


 その言葉に晴人は一瞬、戸惑いを隠せなかった。ほんの少しの時間だけ表情が強張り、身構える。宮内が自分に対してした詮索とは比にならない程の警戒、敵疑心を抱いたが、そう聞いてきた巳門の表情は晴人の予想よりもかなり暗い表情であった。

 訝しむというよりも何かに気を遣って晴人を刺激しないように回りくどく言葉を選んでいると感じた晴人は素直に答えることにした。


「鈴さんは、俺の恩人ですよ。今も昔も変わらずに」


 恩人なんてそんな簡単な言葉で表せる程、彼女達との時間は美しいだけのものではないけれど今の晴人がいるのは彼女達のお陰であることは揺るがない。彼女達が晴人にくれた沢山の時間や思い出。それらは常に晴人を支え、奮い立たせてきた。

 全てを投げうって未来を託してくれた彼女達のためにも晴人は進み続けなければならない。何があろうと、何が起ころうと。もう無様に立ち止まってはいけないのだ。


「そっか、じゃあ次は私の番ってことか」


 巳門は鈴から何度も聞かされたある少年の話を思い浮かべた。真っ直ぐにこちらの瞳を見る晴人の姿はいつか彼女が話してくれた彼の姿と全く同じで、彼女が聞かせてくれた守ってあげたくなる少年とは時間がたって少し異なっているが、それでもふと見せてドキッとさせてくる少年の姿と瓜二つだった。

 そして、いつも彼女は巳門にこう言っていた。


(現実的にいつまで一緒にいられるか。いくら今が世界的に安定していると言ってもいつ戦闘が起こって戦争に発展するかなんて誰にも分からないわ。そんな事にならないように日々勤めているけどいつかは限界が来る。ほんと、嫌な世界だわ)


 彼女が遺した彼女の宝物。何の因果か彼女と同じ道を歩んだ巳門の前に彼は現れた。彼女から聞いていた人物像からは少し変わってしまっているけれど出来る限り彼を守ってあげよう、亡き恩人の代わりに。


 不意に立ち止まり、何かに思いを馳せるように目を伏せた巳門。晴人もまた彼女の様子に思う所があるのか晴人も足を止め、目線を彼女に向けた。晴人の訝しむ視線とは裏腹に顔を上げた巳門の表情は晴れやかで何かに納得したようなそんな表情をしており、目的地に向けてまた歩き始めた。


「急に変なこと聞いちゃってごめんね。びっくりさせちゃったでしょ」


「そうですね。どうして鈴さんのことを聞いてきたのか詳しくお聞きしたいところですけど、また後でその時間をもらえると思っていいんですか?」


「もちろん、時間は空けておくわ。でもまずはきちんと式を終わらせることが先よ」


「分かってます。」


 会議室から歩くこと約十分、待機場所であるステージ裏の控室へ到着すると楽器を持った国防軍隊員達が続々とステージに繋がっている階段を昇っていた。式では毎年、軍の楽団が担当するようで演奏に向けてキビキビと準備をしていた。

 晴人の総代挨拶は宮内による開式の言葉、楽団の演奏、校長の挨拶ときて最後に行う。順番的には最後になるため、まだまだ時間に余裕がある。


 かといって宮内から受け取った挨拶文を確認する必要も特にはない。内容自体に変更はないという話だったし、文もそれ程長くないため、既にあらかた覚えてしまっている。本当にただ控室でステージ脇に呼ばれるまで順番を待つことしかやることがなくなってしまった。


 だが、この時より一時間後、この講堂にいる誰もが予想だにしなかった出来事が晴人の手によって起こされ、この士官学校は混乱の渦に突き落とされることとなる。そして、入学式は混乱の中に終了した。

かなり間をあけてしまい申し訳ありませんでした。今回はかなり短めです。

キャラ名:石井鈴いしいすず

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