夢の続き-⑥
「あの山で眠っていたところを、ものの二月で叩き起こされてな。孤舟と暮らしていた時のように、泥人形の中に命を一つだけ差し出せと言われたのだ。言いにきた連中の中に孤舟がいなかったら、噛み付いてやるところだったぞ」
「孤舟様が? 取り調べに参加されていたのですか?」
「いや、最初は全然。俺はそもそも審査官ではないので」
孤舟は首を振る。
「陰陽師は強大な力を持つが故、正しく存在しているかどうか見張る、監察役を持ちます。それが審査官です。国家陰陽師は全て中務に所属していますが、それぞれに部門が分かれていまして、俺はそこ所属ではないというか」
「ではなぜ」
「いやー、まあ、なんというか」
「孤舟も審査ってやつを受けたのだ!」
濁そうとする孤舟に代わって、左近があっけらかんと言う。桃子は「えっ!」と声をあげ、思わず孤舟を見る。孤舟は気まずそうに頬を掻いた。
「まあ……そうなんです。左近の件で少し。宝生の取り調べで名前が出ましてね」
「た、大変じゃないですか!」
「ああ、今はこれこの通り。完全無罪……とはいきませんでしたが、要観察で放免されてますので、ご心配なく」
「左近にも要観察ってやつがついたぞ!」
「よ、要観察?」
孤舟はともかく、左近にもつくとは一体。しかし、実際に以前のように、左近は動いて喋っている。
「取り調べを受けている最中、宝生のほうの証言に左近が立てるかもしれないと話したら、二月の審議の末に止むなしと判断が下りまして。左近を起こして、首実検を行うことになったんです。大体の主犯の目星は付いているので、最後の一押しが欲しいといったところですかね。灰の売り手の罪も問いたかったようです。現に、荒木と、その他一人の縁者の罪が確定したら、縁者の彼が洗いざらい喋ってくれました。自分一人が罪を被るのは業腹だったってことでしょう」
「なるほど。でも、それがどうして左近くんの要観察に繋がったんですか?」
「それは潮家の口添えがあってのことですね。まあ、……左近のやんちゃも、多少は役に立ちましたが」
孤舟は首の後ろに手を当て、言いにくそうに切り出した。
「実は……潮家の今のご当主が、二本角のその後の様子や宝生のことが気になって、度々狐山町および周辺の山に入っていたそうで」
「はあ……」
「左近、何回か会ってるんです。彼に」
「えっ!?」
「顔馴染みになって、時々言葉も交わしていたそうで」
「えええっ!?」
桃子は仰け反って驚く。
——実はな、友に会いに行くのだ。
——孤舟には内緒だぞ。
あの友達ってもしや、潮家のご当主のことだったのか。
「でも! 孤舟は山を降りるなとは言ったけど、人間と話すなとは左近に言わなかったぞ!」
「そういうのを屁理屈と言うんだ」
口を挟んだ左近に、孤舟は言う。
「首実検で、あの腕輪の男——荒木と、もう一人、宝生の縁者を指差す左近を見て、立ち会いに来られた潮家のご当主が、「君、鬼だったのか!?」と仰天されましてね。それまでずっと町のこどもだと思っていたらしく。で、自分が取り逃がした鬼を封じていた俺と、自分たちに封印されながらも首実検に協力した左近に大変な恩義を感じられたご当主が、左近が人を傷つける危険はないと一筆書いてくださったわけです」
確かに、孤舟以外に親しくしている人間がいたと考えれば、左近の、初対面の桃子とのあの距離の詰め方も頷ける気がした。




