夢の続き-⑤
「——こ、」
「桃子ぉっ!!」
「うっ!」
声とともに腹辺りに衝撃を受け、桃子は呻きとともに後ろにひっくり返った。目を白黒させて腹に飛び込んできたものに目を向けると、まさかの左近がいた。
「さ、左近くん!?」
「うむ! 左近だぞ!」
「な、ど、どうしてここに!?」
封印されたはずじゃ、と喉まで出かかって、慌てて口を抑えた。父がそこにいる。
「実は、少し桃子さんに用事があって」
いささか緊張した様子の孤舟が言った。桃子は慌てて居住まいを正しながら、
「私に、ですか?」
「はい。あと、ついでと言ってはなんですが、今回の事件の当事者に、事件の顛末をご説明するのが筋かなと思いまして、それで、そのー……」
孤舟は言って、言いにくそうにチラと父に目をやる。その視線に全てを察し、自宅に陰陽師がいる感動に打ち震える父を、桃子は問答無用で客間から追い出しにかかった。
「父様、一回出てください、さあさあ!」
「え! しかし、土司様のお話が、」
「山で起きたことについて! 私に! 話にきてくださったので! 立ち聞きも禁止ですから!」
「しかし、」
「いいから出て! 玄関にいるみんなも連れて、散歩にでも行ってきてください!」
玄関まで背中を押して、最終的に則爺に預けて追い出してしまう。戸を閉め、ほっと一息。急いで客間に舞い戻る。
桃子の横に父の姿が見えないのを確認すると、少し肩の力が抜けた様子の孤舟が言った。
「すみません。家にご不在だった頃の話も含まれるので、お父様に話していいものなのかどうか、判断がつかなくて」
「いえ、お気遣いありがとうございます。それで、えっと……」
「そうですね。……まずは、左近の話からしましょうか」
孤舟は横に座る、以前と全く容姿の変わらない泥人形の頭をポンと撫でると、話し始めた。
「あの後ほどなくして、宝生家からは大量の灰が見つかり、所轄の山からは大量の火薬が見つかりました。すぐに国を謀ろうとした嫌疑で独房に繋がれた宝生家当主、厚聡の取り調べが始まりましたが、宝生厚聡及び宝生家の人間は一向に罪を認めず、自分たちが集めたという証拠がない、後からこっそり仕込まれたものだ、潮家と土司家が自分たちを陥れようとしているのだ、とまで言い出しまして。弟子たちも全員知らないと首を振りますし、誰が灰集めに関わり、その末に所轄に被害を与えようと画策していたのか、分からなかったんです」
「まあ……」
「とはいえ、大量の灰と火薬がある時点で、状況証拠は十分。お家取り潰しの上で、宝生家に関わる全員処罰しても良かったんですが、それだと親類縁者はともかく、本当に何も知らなかった末端の弟子たちまでも罪に問うことになってしまう」
「それって……彼らの国家陰陽師の役職は」
「身の潔白が保証できない場合、剥奪されます。仮にも公僕ですから」
口をつぐむ椿に、孤舟はふ、と諦めたように笑った。
「通常、師事する家を無くした弟子たちは、他の陰陽師の家が引き続き育てるようになっているんですが、それもできなくなってしまう。今でさえ国家陰陽師不足で鬼を十分に叩けていないのに、戦力になるかもしれないものを、はぐれ陰陽師なんかにしてどうするんだという話になりましてね。結果、取り調べはかなり難航しました。相手も考えていて、目撃者が出ないよう、閉山した鉱山の中などで取引を行っていたので。どうにか口を割らせようとあの手この手を尽くしましたけど、彼らは喋らなかった」
「でも、確かにお家取り潰しにはなったけれど、捕まったのは当主と、縁者五人に、弟子二十人だって……」
「そこで活躍したのが、左近です」
孤舟は再び左近の頭を撫でる。左近は「ふふん!」と得意げに胸を張った。




