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夢の続き-②



「地位を剥奪された人の中には、風当たりの強さから陰陽師の才覚を隠して、只人として生き直す人もいるっていうわ。その時、先立つものはどうしたって欲しいでしょ?」

「お金が必要になって、新聞に、自らを切り売りするかもしれない……ってこと?」

「そ。ま、私たち只人には、陰陽師様方の苦悩は知る由も無いけどね」


 乃明は頷き、突き放すように言い切ると、


「次来る陰陽師はまともな人だといいわね」


 と笑う。桃子はその陰陽師に対する無関心さに物言いたい気持ちを抑え、「どうかしら」とだけ言う。

 乃明は続ける。


「三津川町のほうは、もうすでに潮家に分割されると決まったでしょう? 管轄地を他の五行に奪われた金の陰陽師筆頭の金条家からは抗議があったらしいけど、政府はそれを一蹴したって話だわ。まあ、当然よね。金条家も、一応の体裁のために抗議しただけで、すぐに引っ込めたって話だし。あとは桃子さんの住む狐山町のほうだけが、陰陽師不在で宙に浮いているわけだけど、水が流れ込むか、それとも金が死守するか。今この辺では議論の的よ。……若武者改め、救国の乙女としては、どっちに転んでほしい?」

「どっちって……ていうか、なあに、そのキュウコクとかって……?」

「あら。新聞の見出しにもそう書いてあったじゃない。覚えてないの?」


 全く覚えがない。

 いや、自分が新聞に載った事実は知っているけど、その時は狐山の後片付けに追われていて、あまりよく覚えていないのだ。


「この辺じゃあなた、有名よ。故郷を憂い、死地に飛び込む女性英雄としてそう呼ばれてるの。今、最先端の話題」

「はあ……」

「今度の新作カブキにもなるかもしれないって」

「はあ!?」


 思わず声がひっくり返った。乃明は無邪気に、ふふふ、と笑う。


「この間、この辺にも誰ぞ取材に来たって噂よ。津々浦々、美談として知られたのだもの。世話物としてこれ以上の題材はないって、息巻いてたそうよ」


 町の人だけならまだしも、世間にまで面白おかしく語られるだなんて、冗談じゃない。

 桃子は火をつけられたように席を立つ。


「もし、もしあなたのところに誰かが来たら、作り話だと言って追い返してちょうだい」

「ええ? せっかく我らが希望の若武者が、広く世間に認められる日が来るかもしれないのに?」

「とにかく断って!」


 これ以上の問答は無用と、横に置いていた木刀を再び背負い、苛立ちとともに踵を返した。しかし、客間から半歩出たところで、ここに来た本来の目的を思い出す。


「そうだわ、忘れるところだった。乃明さん、先日の件なのだけど……あれ、やっぱり大丈夫。ごめんなさい、今日はそれだけお願いしに来たんだった」

「先日?」


 きょとんとする乃明に、「その、……縁談の話」ともごもご返す。乃明は


「ああ、あれね。そうなの? 分かった、父様に伝えておくわね」


 と軽く頷く。大して気にもしてなさそうな乃明だが、こちらの気持ちの収まりが悪く、桃子は重ねて謝罪した。


「本当にごめんなさい、ころころ変えたりして」

「別に構わないわよ。好きな殿方でもできたの?」


 ぐ、と喉が詰まった。まさかそんなことを聞かれるとは思わなかった。慌てて咳払いをすると、乃明は好奇心旺盛な瞳を煌めかせて乗り出す。


「うそ。本当にいるのね? どなた? 私の知ってる方? うまくいきそうなの?」

「ちが、違うわ!」

「やだ、叶わない恋なの?」

「そっ……うじゃなくて。いないの。好きな方なんて。やっぱり、結婚より、道場を継ぐのが先かなって、思っただけで」

「ええ?」

「本当にいないんだったら! それじゃあね、頼むわね!」


「もっとゆっくりしていったらいいのに」とかけられる声は、まだまだおもちゃにし足たりない、と桃子には聞こえる。キッと振り返り、


「これでも忙しいの。道場には、ぜひともここで剣を学びたいって人が、列を成して待ってるんだから」


 と毅然と言い切った。


「ふぅん。救国の乙女目当てで?」

「……っ今度その呼び方したら、絶交!」


 一枚上手の乃明に苦し紛れの捨て台詞を放ち、桃子は逃げるようにして風月を後にした。



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