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夢の続き-①

 




「まあまあ、本当に災難だったわねえ、桃子さん」


 桃子の目の前に座って、紅茶を傾けた乃明はしみじみと言った。

 先日の鬼騒動は新聞にも載り、新聞に載らない詳細は、光の速さでここら一帯を駆け抜けた。

 当然、事の顛末は乃明の耳にも届いていて、彼女は訪ねてきた桃子を迎え入れると開口一番にそう労ったのだった。

 桃子は肩をすくめ


「そうね。でも、潮家の方々が折れた木をどかしたりする大変な後片付けは全部してくださったし、喉元過ぎればなんとやらで、町の皆はもう普段通りに戻っているわ」


 と力なく笑う。


「それにしても、あなたって本当に勇敢ね。いの一番に鬼のいる山に駆けて行くだなんて。その姿を見て町の人も、こうしちゃいられない、と町から逃げ出すのをやめ、覚悟を決めて後を追って山に入ったそうじゃない? さすが我らが若武者と、先日偶然街で行き会った女学校卒の方とも誇らしく語ったのよ」


 新聞に名前こそ記されなかったものの、『町に暮らす一人の少女』として桃子はまるで英雄のように描かれている。実際に骨を折ったのは孤舟なのだが、危険を顧みず戦地に飛び込んだ只人、という字面は大変に刺激的だし、それが元防人の娘とあれば、人々は勝手に美談に仕立て上げるのだった。


「ただ無謀だっただけよ」


 今考えれば、本当にその一言に尽きた。

 とはいえ、過去に戻れたとしても、桃子はまたあの選択をするだろうが。


「それはそうと、悪どい陰陽師もいるものよねえ。宝生家、だったかしら? まさか報奨金欲しさに、灰を集めていただなんて。鬼が死ぬ時には灰しか残らないのに目をつけて、こつこつ集めて、大きな鬼を退治したように見せかけようとしていたんでしょう?」

「うん。六年前に鬼を封印した時にもらった報奨金が、忘れられなかったみたいね。封印ではなく滅殺すると、額は桁違いに跳ね上がるらしいから。それで、もう一度鬼が出れば、と欲が出たんでしょう。けど、その六年前だって、ほとんど潮家が叩いて弱らせたものの上前をはねたような形だし、そもそも自分の所轄に狙い通りに鬼が出るなんてことはないわけじゃない?」

「自分たちで倒せる力もなく、運にも任せられない。それで偽装に走ったわけね」

「そうらしいわ」


 と桃子は頷く。


「騒ぎもなく、ただの灰を置いて、これが自分たちの倒した鬼ですって説明するんじゃ信憑性がないからって、もっともらしくするために、所轄の山を燃やそうとまで画策していたと聞いたけど、本当かしら?」

「さあ? あとの計画までは……町の人たちは、業突く張りが仇になったって笑ってたけど」

「それもそうね。もう宝生家の人間は全員、屋敷を追い出されたし、関係者に話も聞けないものね。そのうち、新聞に載るのを待つくらいだわ」

「え? 新聞になんて、もう載らないでしょう? 事件は終わったのだから」

「まさか! きっと一年以内には詳細が明らかになるわよ」


 桃子の素朴な問いに、乃明はぶんぶん首を振る。


「いい? 宝生家には今回の一件で、お上からお家取り潰しの沙汰が下ったの。当主と、その片棒を担いだとされる縁者五人、それに弟子二十人はもちろん牢獄行きだけど、他の親戚連中もみんな国家陰陽師の地位は剥奪。財産も没収されたわ。そうなると町をさすらう、はぐれ陰陽師になるしかなくなって、先行きは真っ暗だそうよ」

「そうなの?」

「そもそも、国家陰陽師が所轄を持つ今、行く先々で風水やら占術やらで只人の困りごとを解消するっていう、はぐれ陰陽師にお金を払って用を頼む人なんて早々いないわけでしょ? どこかの豪商が家付きの陰陽師として雇うこともあるらしいけれど、それでも以前の生活とはいかない。それに、他の陰陽師連中からの風当たりもきついって。陰陽師の才がある人間はまず、国家陰陽師になると相場が決まっているのだもの。相当図太くなくちゃ生き残れないわ」

「まあ……」


 桃子は言葉を失う。

 陰陽師は生まれついての公僕、という暗黙の了解が蔑みの視線となって、家付き陰陽師の尊厳を蝕むのだ。



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