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土司孤舟-㉒



「な、なぜ、あなたがここに……!」

「狐山に封印された鬼が起きたのが、我々の所轄からでも分かりましてね。元は我らの仕事ですし、少しでもお力添えをと思って、急ぎ参じた次第です。しかし、封印には一足遅かったようで。ならばせめて、後片付けをお手伝いしようかと。ただまあ……まさかあんな話を聞くとは思ってもみませんでしたが」


「ひ」と宝生の喉から怯えの呻きが漏れた。視線だけを動かし、紛れた間者を探す素振りに、潮は笑って天を指した。


「間者など送っておりませんよ。ただ、此度は天が味方したのです」


 そこには曇天から降りしきる雨だけがあった。


「雨は私たち、水の陰陽師の領域ですから。雨を通じ、委細聞かせていただきました」


 潮は言って、一歩踏み出すと、


「——我ら国家陰陽師は人と国のために異術を行うもの。只人を害そうとすることは、それだけでも欠格事由に当たります。そのほかも併せて、詳しくお聞かせ願えますか?」


 と、微笑んだまま宝生に凄んだ。宝生は逃れようとしたのか、それとも迫力に気圧されたのか、また一歩退こうと足を動かす、が、それは阻まれた。

 宝生の着物の袖が、家畜を繋ぐ紐のように前に引かれたのだ。


「言ったはずですよ。雨は私たち、水の陰陽師の領域だと」


 立ち並ぶ金の陰陽師たちの、ぐっしょりと濡れそぼった着物の袖。それが一斉に、きゅうと腕を絞るような動きを見せる。

 それは、潤沢な水のある今ここでなら、お前たちなどいつでも、どうとでもできるのだぞ、という、かつて煮え湯を飲まされた水の陰陽師たちからの言葉なき圧力だった。

 そうして宝生はついに


「わっ、私を誰だと思っているんだ!」


 ともがきながらも、仲間と共に濡れた袖に引かれるようにして、水の陰陽師たちに連れられて山を降りて行った。

 突然の展開にポカンと口を開けていた孤舟たちの元に、潮がゆるりと近づいてくる。


「土司様でいらっしゃいますね」

「あ、はい」

「此度は我らの不手際で、大変ご迷惑をおかけいたしました。後の始末はこちらで致します。その際、またお話を伺うことがあるやもしれません。大変恐縮ではございますが、何卒ご容赦くださいませ」

「は、それはもちろん」

「後日、もてなしの席を設けます。遅きに失しましたが、それまでぜひ潮家に御身をお招きできればと思いますが、いかがでしょうか」

「お構いなく、と言いたいところですが……ご当主の面目を潰すわけにもいかなそうですね。ここの封印は、もはや人柱を要さない。謹んで、お招きにあずかりましょう」


 潮は有無を言わさぬ微笑みで孤舟から了承の返事を引き出すと、


「改めて、この地への献身に、深く感謝申し上げます」


と最敬礼し、チラと桃子を見てから、


「それでは、積もる話もおありでしょうから、私は一旦これで。麓でお待ち申し上げております」


 と残してその場を去って行った。



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