表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/76

土司孤舟-⑮

 


 左近はゆっくり下ってくる。孤舟もゆっくり上がりながら考える。

 友人に使いたくはないが、一度動きを止めるために、術を使うべきか。あちらに理性が残っているといいんだが。


 その時、誰かの声が聞こえた。女性の声だ。


 孤舟は、まさか、と思って振り返る。

 そこには泥だらけで山を駆け上がってくる、一人の若武者がいた。


「来るな!!」


 そう叫んで手を出した。制止の合図に、桃子はピタリと立ち止まる。そのまま、何かを見極めようとする顔でこちらを見ている。

 雨と暗さで見えないのか、と思ったが、すぐに、この異形に覚えがないのだと気づく。彼女には熊の姿でしか会ったことがない。


「……ここは、危険です。即刻、安全地帯まで退避してください。具体的には町の外まで。これは只人の介入することではありません」


 慇懃無礼を装って突き放す。危険な目に遭わせたくなかったし、この異形が、彼女の知る土司孤舟だと悟らせたくもなかった。


 どうかこのまま、気づかず去ってくれ。

 あのまっすぐな瞳が、歪むところを見たくない。


 しかし、孤舟の祈りとは逆に、桃子は唇を引き結ぶと、強く一歩踏み出してきた。

 一歩、また一歩、半ば駆けるようにして近づいてくる。

 あまりの勢いに怯んだ孤舟が一歩退くと、制止のために掲げていた手を、むんずと掴まれた。驚いて動きが止まる。


「な、にを、」


「——孤舟様」



 息を呑む。


「孤舟様ですよね?」


 確信の込もった再度の問いに、何も答えられずに黙り込む。それを桃子は肯定と取ったのか、はああ、と顔を伏せて深く息をついた。


「……なんだ。怪物だの、化け物だのと、散々言うから、見つけられないかと思いました」


 桃子が顔を上げる。まっすぐな瞳が孤舟を見て、心底から安心したように垂れた。



「全然、人間じゃないですか。孤舟様。全然、なにも、変わらないじゃない」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ